民泊、法的に「差止める」ことはできるのか
(1)実状が標準管理規約12条に違反するか否かを見る
1〜2を前提に、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」(改正前の標準管理規約12条)という規定を根拠に、民泊(住宅宿泊事業)を差止めることはできるでしょうか。
まず、住宅宿泊事業が改正前の標準管理規約12条に違反するか否かについて文言のみで一義的に判断できるでしょうか。
この点、住宅宿泊事業について「不特定・多数の利用者を想定した宿泊施設としてのサービス形態」という側面を強調すれば、住宅宿泊事業は改正前の標準管理規約12条に違反するという評価に結びつくといえます。
一方、住宅宿泊事業について「住宅を利用・活用するサービス形態」という側面を強調すれば、住宅宿泊事業は改正前の標準管理規約12条に違反しないという評価に結びつくといえます。
いずれにせよ、住宅宿泊事業が改正前の標準管理規約12条に違反する否かについては、解釈が分かれており、現時点では、文言のみで一義的には判断できない状況にあります。
したがって、住宅宿泊事業が改正前の標準管理規約12条に違反するか否かは、当該住宅宿泊事業が当該マンションの平穏さや良好な住環境を害していないかを、具体的な事実に照らして、実質的に検討する必要があります。
(2)具体的に検討しうる考慮要素とは
考慮要素としては、過去の裁判例や学説に照らすと、以下の2つのポイントが考えられます。
①当該宿泊事業の使用実態
予想される出入りの人数、宿泊期間、家主同居型か否か、実際の迷惑行為の有無等をさします。一般論としては、宿泊期間が短く頻繁に客が入れ替わる方が平穏を乱す傾向が強く、宿泊期間が長く客の入れ替わりが少ない方が平穏を維持する傾向にあると思われます。
ただし、「区分所有建物の使用実態にもよるが、1ヵ月程度の長期滞在を前提とする場合であっても、それが繰り返されるときは、他の現住者の生活の平穏を損なう利用と解しうる。反対に、夏休みの帰省中に限って民泊施設に提供するなど、その利用頻度が限定的なときは、他の反住者との関係でも生活の本拠としての平穏さは保たれているといえよう。」(法律時報88巻7号80頁)と指摘されています。
また、家主不在型よりも家主同居型の方が、平穏を維持できる傾向が強いと思われます。
ただし、「専有部分の一部を民泊サービスに利用する場合であっても、居住者の生活と無関係に利用者が専有部分に出入りするときは、他の居住者に宿泊者と居住者の関係性が示されない点では専有部分全部を利用する場合と相違なく、その利用類度が高ければ生活の本拠に相応しい平穏さを満たさないと解する余地はある。」(同上)とされています。
②当該マンションの構造、特性、周辺環境
オートロックの有無、賃貸物件の割合、事務所・店舗使用の有無、周辺の閑静さをさします。
賃貸物件の割合については「たとえば、専有部分の多くが既に賃貸物件として使用され居住者が常に入れ替わっている場合、居住者の特定性は希薄であるため、民泊サービスによる不特定者の出入りが他の居住者の生活の平穏に影響を及ぼす可能性が低くなると考えられる」(同上)と指摘されています。
したがって、このケースの場合、上記①②の考慮要素を具体的な事実に照らして検討しながら、標準管理規約12条違反を根拠に請求を申立てていくべきといえます。
香川 希理
香川総合法律事務所 代表弁護士