(※画像はイメージです/PIXTA)

高校別東大合格者ランキングを見ると上位を私立・国立中高一貫校で占められています。そのデータを鵜呑みにして、「中学受験をするのは“いい大学”に行くため」と訳知り顔で語る人は、中学受験文化を知らない人だと思って間違いないといいます。それはなぜでしょうか。※本連載は安浪京子氏、おおたとしまさ氏の著書『中学受験の親たちへ 子どもの「最高」を引き出すルール』(大和書房)から一部を抜粋し、再編集したものです。

中学受験は学校がもつ文化を継承する

では何のためにわざわざ中学受験するのか。それは、各学校がもつ文化を継承するためです。

 

私立の学校にはことごとく建学の精神および教育理念があります。時代を経ても変わらない「人としてどうあるべきか」を説く教えです。「何ができるようになるか」ではなく「どういう人になるべきか」、つまり「To do」より「To be」を示しています。人としての生き方です。

 

たとえば、いわゆるコロナ休校期間中の各学校の対応はそれぞれでしたよね。しかしその方針決定の方法はおそらく公立と私立で大きくちがっていたはずです。公立の学校が教育委員会の方針に従ったのに対して、私立の学校の校長や経営者はおそらく「創立者ならどう判断したか?」を考えたはずなんです。

 

生き方は、知識ではなく態度なので、言葉で教え込むことができません。その生き方を実践する文化をもつ集団の中に身を置いて、少しずつ体に染み込むものです。フランスの著名な社会学者はこれを「ハビトゥス」と呼びました。

 

僕はこれを「学校文化」とか「学校の家付き酵母」などと呼びます。「家付き酵母」というのは、昔の味噌や醤油の蔵元に住み着いていた酵母のことです。

 

昔、同じ材料を使って同じように仕込んでも抜群の風味に仕上がる蔵元とそうでない蔵元があり、前者には神様が住んでいるといわれていました。実際には目には見えない酵母が蔵元の建物の中に住み着いており、それが味噌や醤油に作用して独特の風味を加えていたのです。それを「家付き酵母」と呼びます。

 

それと似たものが、学校の学び舎にも住み着いているのです。そこに6年間いるだけで、独特の風味が加わります。もちろん同じ学校の卒業生がみんな同じような生き方をするわけではありませんが、俗に「開成らしさ」とか「桜蔭らしさ」というような「におい」があるといわれるのはこういう理由です。

 

この「におい」を求めて中学受験はするものなのです。

 

ちなみに東京においては強烈な「におい」を放つ私立中高一貫校がたくさんありますが、地方においては旧制一中や二中と呼ばれるような公立伝統校が地域に根ざした学校文化継承の場としていまでも機能しています。そのような公立高校がある地方においては中学受験をするよりも公立中学から公立名門校に進学したほうが、強い「におい」を身につけることができます。

 

Pointまとめ
●難関大学合格だけが目的なら、学校など行かず6年間塾で対策するのがもっとも合理的。
●東大に合格するポテンシャルをもつ子はどんな学校に行っても東大に合格する。
●私学にお金を払うのは、そこにしかない学校文化を身に染み込ませるため。

 

おおた としまさ
教育ジャーナリスト

 

 

中学受験の親たちへ 子どもの「最高」を引き出すルール

中学受験の親たちへ 子どもの「最高」を引き出すルール

安浪 京子 おおた としまさ

大和書房

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