高校受験があることが日本の教育の問題点か?
話を戻しましょう。中高一貫校の進学実績がいいのは「先取り教育」のおかげであるという言説は、半分正しくて、半分間違っているという話です。
たしかに私立の中高一貫校では、生徒たちの学力レベルに合わせて授業を進めることで結果的に先取り教育に見える教育を行ってはいます。高校受験対策に時間を取られることもないため、たいがいの私立中高一貫校では高2までに高校までの履修範囲を終え、高3の1年間を大学受験対策に丸々あてることができます。これが大学受験に有利でないはずはありません。その意味で、先ほどの言説の半分は正しい。でもそれだけでは説明として不十分です。
まず、入学してくる生徒の学力的な器の大きさがちがうのは否めません。先述の都立中高一貫校でも、中学から入るのと高校から入るのとでは実は学力層がちがいます。
さらに、東京都の報告書にあるように、高校受験がないという時間的・精神的ゆとりが学力向上にも寄与していると考えられます。特に暗記だけでは対抗できない難関大学入試を突破するような高い学力を身につけるうえでは、実際の受験勉強以前に学力的な土台あるいは器のようなものをどれだけ広げておくかがものをいいます。
その点、高校受験がない中高一貫校の生徒は、中学生のうちに目先のテストの1点2点にとらわれない学習に時間を費やすことができます。理科であればたくさんの実験を行い、社会であればフィールドワークやディスカッションに時間を割くことができ、英語であればささいなスペルミスよりも実際に会話を楽しむことにエネルギーを注げます。
それが、最終的に受験勉強に打ち込むときに覚えなければいけない膨大な知識を結びつける土台になるのです。まず器を大きくしておいて、最後に細かなコンテンツを正確に詰め込んでいくイメージです。
中学入試によってもともとのポテンシャルが高い子をフィルタリングしているうえに、中学生のうちに学力の器を目一杯広げておけるので、最後の1年で大学受験突破のために必要なコンテンツを比較的無理なく格納できるのです。
● 東京都の調査によれば、中高一貫校生は学業以外でも高い成果を残している。
● 私立中高一貫校は入口の時点でポテンシャルの高い子をフィルタリングしている。
● 中学生のうちに経験する目先の点数にとらわれない学習が大学受験にも有利に働く。
おおた としまさ
教育ジャーナリスト