「先取り教育」だけが大学合格実績を上げるのではない
中高一貫校の大学進学実績がいい理由は、中学生のうちに高校の範囲まで踏み込んで学んでしまういわゆる「先取り教育」にあるといわれることがよくあります。でもそれは、半分正しくて、半分間違っています。
たいへん興味深いデータがあります。10校ある都立中高一貫校のうち「併設型」と呼ばれる5校は中学からも高校からも生徒を募集していますが、東京都教育委員会の都立中高一貫教育校検証委員会の報告によると、都立中高一貫校における中学からの入学者(内進生)と高校からの入学者(外進生)の進学実績を比べると、内進生のほうが圧倒的に良かったことがわかっているのです。
併設型の中高一貫校では、内進生であっても極端な先取り教育は行えません。外進生との足並みをそろえなければいけないからです。それでも難関国立大学等(東大・一橋・東工大・京大・国公立大学医学部)の合格率を計算すると、内進生は7.6パーセント、外進生は0.8パーセントと大きな開きがありました。
ちなみに日比谷・西・国立など都立進学指導重点校7校の難関国立大学等合格率が8.1パーセントですから、併設型中高一貫校の内進生は、躍進目覚ましい都立進学指導重点校とも互角の進学実績を出していることがわかります。
この内進生と外進生の進学実績のちがいは、そもそも入学時の学力層がちがうことが一番大きな原因だと僕は分析していますが、報告書はさらに興味深い事実を紹介しています。ちがいは学業だけではないのです。
各種大会・コンクールの実績においても、文化・スポーツの両面で内進生の実績が高く、「内進生については、高校受験のないゆとりを生かして、趣味や部活動など、自分の興味や関心があることに取り組めていることが結果に結びついているものと考えられる」とまとめているのです。
思春期と呼ばれる多感な時期に高校受験がないことで、学業だけでなく、それぞれの個性を引き出すという恩恵が受けられることが証明された形です。
実際、欧米の先進国で日本の高校受験のようなものは行っていません。映画のハリー・ポッターが通うホグワーツという学校を思い出してみてください。中学と高校に分かれていません。15歳が一斉に高校受験に取り組み偏差値で輪切りにされるのは、先進国では中国くらいなのです。