※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、時間に対する意識の重要性と、本来の業務ではない「付随する余分な仕事」がいかにビジネスの足かせになるかを取り上げます。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

業務効率化を妨げる根本原因は「付随する余分な仕事」

シリコンバレーは何事もスピーディだという話をすると、「やはりITの最先端だからですか」と聞かれます。たしかにその通りで、便利なものがあればいち早く取り入れて使いこなすのがシリコンバレー流ですが、もっと本質的な理由があると私は見ています。

 

それは、シリコンバレーは「人のためのシステム」という原則を貫いているということです。だからこそ、スピーディに仕事ができるのだと感じます。逆に言えば、使い勝手の悪い既存のシステムに合わせて仕事をしていたら、効率が落ちてしまいます。

 

このことを痛感したのは、やはり客員で定期的に訪れていた日本の大学での出来事でした。「学内でのインターネットの接続方法を教えてください」とお願いしたところ、「手続きが煩雑です」との答え。いろいろやりとりしたものの、最終的には「正規の職員以外には大学のネット接続のアカウントは出せない決まりです」という結論でびっくりしました。大学滞在中にネットが使えず一体、どのように仕事をすればよいのでしょうか?

 

これがスタンフォードであれば、ビジターでも誰でも登録なしに学内でWi-Fiがすぐに使えます。セキュリティがしっかりしたシステムを作っているのでトラブルも起きません。ビジターのアカウントでは、最大12時間までの使用に制限され、大学のIPスペースへのアクセスは不可ですが、それでも学内では、誰でも自分のメールやウェブ閲覧は自由にできます。大学のアカウントを持っている職員は誰でもその場でゲストのアカウントを作成し、このビジター用の制限をはずすことが可能です。これらの使用にはコンピュータの登録やアカウント作成も不必要です。

 

ところが、大学のサーバーに接続して大学のシステムに入る場合には、すべての機器を事前に登録し、サーバー接続のセキュリティ基準を満たし(セキュリティが確立したOSを用いすべてのハードドライブをエンクリプトして大学支給の最新のウイルス除去アプリをインストール)、常時セキュリティレベルをbidirectional(双方向)で確認し、二重認証を経て接続可能となります。セキュリティの基準を充たさない機器やシステムを使用していると、メールのアカウントも含めすべてのアカウントが停止されます。実際、私も日本出張中に、私がスタンフォードで使用している機器に問題が生じてアカウントの停止が起こり大変でしたが、ネット関係のサポートは24時間対応で、日本から大学に電話で事情を説明して、とりあえず米国帰国日までアカウント停止を猶予してもらったこともあります。

 

日本でも多くの企業はビジター用のアカウントを用意していると思いますが、欠点は日本ではサーバーのセキュリティが確立していないため、逆に使い勝手の悪いシステムになっていることです。

 

もう一つ例を挙げると、データ送信の容量が制限されている日本企業が多いのも残念な点です。テレビ局でさえ、「一回に送受信できるデータは何メガまで」などと決まっているので、画像や動画などの大容量のデータを送る際は困ります。半分に分けて送ってみたり、それでもダメだと3分の1ずつ送ってみたり、どう考えてもこれは無駄な手間です。また特定の容量制限の受信者のみから送り返されるので、他の受信者をはずしてファイルサイズを変えながら何度も送信を試みるようなことも起こります。

 

会社によっては、「社のサーバーだと容量制限があるので、○○便という大容量サーバーにデータをあげてください」と、無料で使えるサービスを教えてくれたりしますが、容量制限のあるような会社が、「セキュリティの心配もあるので、できるだけ○○便は使わないでください」などということもあります。

 

そのためにパスワード機能があると言っても、これまた煩雑です。重要度や機密事項か否かにかかわらず、「すべての添付ファイルにはパスワードをかける」という会社もあり、効率と能率を無視した無駄なルールだと感じます。そもそも無料のサービスに対して万全なセキュリティがあるものとして使って大丈夫なのかという疑問もあります。

 

ここでも根本的な問題は、仕事の効率よりもシステムが優先されているということ。つまり、仕事に必要であっても会社に大容量サーバーというシステムがないので、現場はそれに合わせてフリーソフトでまかなっているという現状が問題だと思うのです。システムに合わせて仕事をするのではなく、効率よく仕事をするためにシステムを構築するといった初心に帰ってもらいたいですね。

 

「大容量データのメールのやり取りが不便だ」というニーズがあるなら、そのニーズに合わせて会社のサーバーを変えればいい。話はごくシンプルです。

 

また、重要な機密事項を扱う際に、個人がしっかりとパスワードをかけるというのはマンパワーに頼るやり方であり、その人の本来の業務とは異なります。たとえば、秘密裏に新製品の開発をしている人がいたなら、商品開発こそその人の「本質的な仕事」であり、情報にセキュリティをかけることは「付随する余分な仕事」です。こうしたことを取り除いていくのが、仕事をスピーディにする鍵です。

 

スタンフォードでは医学の個人情報も扱いますので、私もmedicine boxというさらに上級のセキュリティのサーバーにアクセスする必要があり、その使用に関しては、使用者の登録や定期講習も含め、よりハイレベルの規制が敷かれています。これは必要があって高度のセキュリティをかけているわけで、無意味なシステムを導入して仕事をそれに合わせるのとは根本的に違います。シリコンバレーの企業も同様です。スピーディな仕事を意識するシリコンバレーでは死活問題になります。

 

 

西野 精治

スタンフォード大学 医学部精神科教授・医学博士・医師

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長

日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員

日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

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西野 精治

文藝春秋

スタンフォード大学で学んだ著者が説く、仕事術! 著者がアメリカトップの大学の一つであるスタンフォードの門を叩いたのは1987年のこと。それから多くの蒙を啓かれること30年余、真の成果主義や個人主義について学びました…

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