※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、アメリカの大学の研究室のシビアな「成果主義」ぶりを、日本の大学と対比させつつ解説します。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

素晴らしい研究テーマでも「絵に描いた餅」では…

数年前、スタンフォードに籍を置きつつ、文部科学省が主導するCOI(Center of Innovation:10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジング・ハイリスクな研究開発を最長9年度支援するプログラム)という官学連携のプロジェクトに協力することになり、私はある日本の大学の客員教授になりました。

 

それをきっかけにして、他の大学でも私が研究分担責任者として、国に研究費を要請する機会も生まれ、申請書を書くことになったのですが、日本での研究費申請には、日本の研究者番号が必要であることを知りました。

 

そこで私は日本のとある大学で客員教授として番号を申請しました。応募規定を読むと「番号が付与された大学で実験せよ」と書かれているのですが、私の拠点はあくまでスタンフォードであり、年に数回来日し、日本の大学は数日滞在するだけです。客員である大学には自分のラボも設備もなければ実験や研究もできず、言ってみれば“実務が伴った研究計画”は作れません。

 

スタンフォードの所属で研究費申請も可能とのことでしたが、そのためには、「研究で出た成果の知的財産の帰属はすべて日本」という書類に私とスタンフォードのオフィサーがサインすることになり、これはスタンフォードを含め米国の大学では不可能です。たとえ、研究費が日本から出ていても、スタンフォードのスタッフや設備を用いての成果ですので当然スタンフォードにも権利があります。

 

困ってしまって相談したところ、日本の先生たちは「あまり気にしなくてよいですよ」と涼しい顔です。詳しい実験計画や実現可能性を示さなくても、上手くいけば申請が通り、研究費は下りるだろうというのです。

 

たとえば、実績のあるベテランの研究者が書いた申請書ならそれでOK。私も長年研究生活を送ってきましたがそんなものではないでしょう。あるいは、研究のテーマが斬新だったり、「国民の睡眠を改善して健康寿命をのばし、医療費の削減を果たす」といった興味深いものであればそれでOK。実際にそういった実験をどこでどのくらいの規模でどう行うか、あまり問題にされない……。これでは、研究者の名前があるだけで、ほとんど実現性のないテーマでも研究費が下りてしまいます。申請時には、「あまりにもフィジビリティを軽視しているなあ」と驚きました。

 

フィジビリティ(feasibility)とは実現可能性という意味で、新たな企画やプロジェクトを始める際に、それが果たして実現できるものか検討する必要があるという考え方です。

 

日本が研究者の過去の実績を重視するのは、もしかすると「この先生の研究なら実現性が高い」と評価しているためかもしれませんが、研究とは本来、そのテーマごとに異なる結果になるものです。パリ・ーグで216打席連続無三振の記録を持つイチローですら三振する確率はゼロではありませんし、自戒を込めて言えば、たとえベテラン研究者であってもイチローより失敗する可能性が遥かに高いものです。いくらベテランでも新しいテーマの際には、パイロット試験を行い、見込みを示すだけでなく、統計的に有意差が実証できる実験個体数を割り出す必要もあります。それによって初めて予算申請が可能になります。

 

また、どんなに素晴らしい研究テーマでも、“絵に描いた餅”では意味がありません。日本の研究費の原資も税金なのですから、単なる研究者の夢物語に大金が投じられてしまうのは国民にとって恐ろしいことではないかと私は感じました。

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

西野 精治

文藝春秋

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