※画像はイメージです/PIXTA

米国で30年以上研究者として活躍し、現在はスタンフォード大学医学部で教鞭をとる筆者が、仕事を極限まで効率化して最大の成果を得る、具体的なビジネススキルを公開! 今回は、アメリカの大学の研究室のシビアな「成果主義」ぶりを、日本の大学と対比させつつ解説します。※本連載は、スタンフォード大学教授、医学博士の西野精治氏の著書『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

研究申請が承認されても、成果が出せなければ更新なし

こうして3人の査読者がつけた点数(1点から10点の10段階評価)を合計して、いわば1次審査が終了。得点が悪い半分はここで却下され、残る半分の研究申請については審査員全員がアメリカ全土からスタディセクションで指定された地域に集結して会議を開き、一つ一つ検討します。

 

最近は遠隔でのレビューも行われるようになりましたが、主要メンバーは一堂に会し、白熱した議論を交わすことが多いです。前日深夜に現地に到着し、その時点で初めて上位半分の研究申請が発表され、プライマリーの審査員にあたっている申請書の審査では、申請内容の概要を説明するなど、進行役も務める必要がありますので、その晩はほぼ徹夜で、申請書を読み直し、見落としがないように努めます。

 

プライマリーの審査員が説明を終え得点を述べた後、引き続いてセカンダリー、サードと3人の審査員が意見と得点を述べます。その後、全員で侃々諤々(かんかんがくがく)と議論し最終投票を行います。そこで再び3人の審査員が修正得点を述べ、引き続いて全員が投票します。

 

私のセクションでは、3人の審査員の最終投票の平均点より1点以上隔たりのある得点をつけるときには、その前に必ず挙手して、その理由を全員に説明する必要がありました。従って最終得点は、ほぼ3人の査読者の得点に左右されますが、第1次審査で見落としがあると、査読した申請書の得点を大幅に修正する必要もあり、それは査読者としては名誉なことではありません。この過程が朝から夕刻まで(また場合によっては2日にわたり)延々と続きます。

 

会議中は聞き逃しがないように、集中して話し合うので、会議が終わっても、その日の夜は頭が興奮していて全く眠れない状態になることもありました。時には48時間以上の完徹ですが異常に頭が冴えてしまいます。会議が終わっても、申請者に配布する、1次審査の査読結果の修正版を期日内に仕上げる必要があるので、すぐには休めません。

 

また、同じ分野で研究をしていると研究者同士が親しくなることもありますが、過去に申請者と共同研究をしたことがあると、「特別なつながりがある」、つまり、いわゆる「忖度(そんたく)が起こりうる」とみなされて審査員は務められません。同じ大学からの審査員もスタディセクション毎で一人と決まっています。あくまでも内容本位、成果が出るかどうかで審査されるということなのです。

 

夫婦で同じ部門で研究を行っているPI(主任研究員)も何組か知っていますが、専門職の場合、結婚しても姓を変更しないことはよくあります。お互い確実に実験を手伝っているのに、共著にはしないということを何度も見聞きしました。

 

こうしたことは、同じ専門部門の教授、弟子にも起こり得ます。おそらく、研究費審査でのメリットを考えているのだと思われます。こういう場合、「この研究申請の審査には、免疫学を熟知した睡眠研究者を必ず一人入れるように」と申請者が要求することもあり、「免疫学を熟知した睡眠研究者」はそのグループにしかいないので、近年に共著がないのであれば、弟子が審査員に入ってしまいます。敢えて共著論文は書かないということは、大学でのプロモーションでもそれぞれ独立した研究者とみなされ優位に働くものだと思われます。これは、いわゆる成果主義のなかで生き残るために身についたせめてもの処世術なのでしょう。

 

こうした厳しい審査を経て研究申請が承認され、NIHから研究費が出たとしても、「5年でこのような結果を出す」と申請にあったのに5年後に成果が出ていなければ、更新を申請することは難しく研究費はそこで打ち切られます。「競合的更新」とよばれる制度で、更新の申請は他の新規の研究申請と同時に競合的に審査され、その際には、前の期間での成果も考慮されますので、期待された成果が出ていなければ、いくら立派な申請書を書いても、今回は2次審査に進むことはないでしょう。

 

研究というのは一人でできるものではなく、たいてい研究ラボで行われますが、その運営費も関わる人たちの人件費、コンピュータ、備品、事務用品も、NIHや外部の研究費で賄われています。つまり成果が出なければ研究ができなくなるどころかラボは潰れ、多くの人が失業となるのです。なかなかにシビアな成果主義と言っていいでしょう。

 

PIは予算を取るだけでなく、研究室の宣伝、研究員のリクルート、会計管理も行う必要があるので、“中小企業の社長さん”みたいだと妻に言いましたが、この規模では、“零細企業”だと正されました。そう言われれば、まさに零細企業の自転車操業です。

 

 

西野 精治

スタンフォード大学 医学部精神科教授・医学博士・医師

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長

日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員

日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員

 

 

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スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術

西野 精治

文藝春秋

スタンフォード大学で学んだ著者が説く、仕事術! 著者がアメリカトップの大学の一つであるスタンフォードの門を叩いたのは1987年のこと。それから多くの蒙を啓かれること30年余、真の成果主義や個人主義について学びました…

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