「何をご理解しろというんや?」と心で呟き…
日本でも「フィジビリティ」がビジネス用語として使われつつあると聞きますし、「重要なプロジェクトは、必ず立ち上げる前にフィジビリティ・スタディ(実現可能性調査)を行う」という企業もあるでしょう。しかし、「まだまだ少数派なんだな」と私が思ったのは、日本のある研究所の人たちにお目にかかり、そこのウェブサイトが話題になった時のことでした。
「とても面白い研究をなさっているんですね。このテーマでしたら、うちの睡眠ラボと共同研究ができるかもしれません」
私がそう申し上げたところ、相手は困った顔で微笑みました。
「いやあ、西野先生。これは研究費の申請のとき、応募要項やクライテリア(審査基準)に合わせてとりあえず書いた〈ポンチ絵〉で、まだ具体化はしていないのです。どうかご理解ください」
私は唖然(あぜん)とし、「何をご理解しろというんや? それなら今回の訪問の目的は何や?」と心で呟きました。とりあえずのテーマでは、現実性を欠く仕事ぶりになるのも当然です。
アメリカではフィジビリティを重視します。いくらいい企画でも実現性に乏しければ、検討するに値しないとみなされます。また、「素晴らしい研究に熱心に取り組んだけれど、結局、何も発見できませんでした」、さらに、提案した実験そのものが、「色々な障害でできませんでした」というのは決して許されません。研究はそこで中断されてしまいます。臨床研究では、被験者の数が予定よりも大幅に少なかった場合には、その不足分に相当する研究費の返還が求められます。
逆に言うと、フィジビリティありきでスタートしていれば、やるべきことも具体化されているので、効率的に研究を進められます。成果が出なければ次のチャンスがないので、必死で成果を出そうとします。これは研究の場でもそうですし、シリコンバレーのビジネスシーンではことに顕著です。こうしておのずと成果主義になっていくのでしょう。
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