「ビジターチーム用の映像」にアレンジすることも可能
この「球団映像」は、アレンジを加えて、多種多様なニーズに応えることができる。地方局の応援番組的なケースを例に取ってみよう。
西武対ソフトバンクの一戦が、メットライフドームで行われる。これを、福岡のローカル局が中継したいと、西武の球団映像を購入するケースだ。
球団映像なので「若干、チームびいきにしているんですけどね」と髙木。
つまり、実況は地元・埼玉や関東圏のアナウンサー、解説は西武OBが中心になる。球団自身が、球団の映像を作るのだから、西武に肩入れしたテイストになっているのは当然だ。主な顧客が西武ファンであるのだから、当然のことだろう。
これを、福岡風にアレンジするのだ。
実況アナウンサーと解説者、さらにカメラ1台とこれを稼働させるスタッフだけ、メットライフドームの試合にやって来る。ビジターチームは、一塁側ベンチに陣取る。このベンチでの様子を追うことに特化したカメラを、三塁側に配置しておくのだ。
ライオンズびいきの球団映像では、一塁側から狙った三塁ベンチの風景が、たびたび映される。つまり、ライオンズの選手の表情やベンチの動きを、試合中に見せるのだ。
しかし、この映像は、福岡のホークスファンには不要だ。それどころか、ホークスが失点して、ライオンズが得点を挙げて沸くシーンなど、むしろ反感を招きかねない。
そこで、球団映像で、ライオンズのベンチに映像が切り替わったとき、福岡向けには即座に、三塁側に設置した“特設カメラ”の映像に切り替える。
そうすると、ライオンズの球団映像でありながら、ホークスのテイスト満載の中継映像が出来上がるというわけだ。
現場に実況、解説者が行かなくても、映像さえ送られてくれば、福岡であろうが、札幌であろうが、人が動かなくとも「声」は入れられる。
「例えば、ウチにカメラ1台、別にお願いしてもらって、ホークスびいきのカメラを1台出せるよ、というのはできるんです。その分だけの費用を出していただければ、全然できることなんです。誰も来なくてもできるパターンになりますね」
髙木が言うように、ビジター球団用の映像もパッケージとして作ってしまえば、アナウンサーや解説者は、地元でその中継映像を見ながら、話すことができる。それを、放送すればいいだけだ。
その分、値段は高くなるが、人件費や移動費、さらにコロナ禍の状況下で、多くの人員を出張させることができないという事情など、感染防止対策の面から考えても、これほどリーズナブルで、合理的な方法もないだろう。
テレビの「ニュース映像」も、この「球団映像」がベースになっている。
ホームランを打った場面や勝利を決めた印象的なシーンなど、スポーツニュースで使えそうな映像を数十分にまとめたものをセットにし、希望するテレビ各社に販売する。
その中から「一日何分までなら自由にお使いください」というプランで契約するのだ。
以前なら、テレビ局からカメラ1台とスタッフが来て、ニュース用の映像を撮っていたという。これを、球団から配信できれば、テレビ局側にとっても、経費節減ができる。
「あるところまでは、利益率も高いビジネスではありますね」
まさしく、ウィンウィンの関係だ。
コロナ禍での開幕となった2020年(令和2年)6月の試合中継でも「もともとの考えていた予算まではいかないですけど、本数としては、それに近いくらいまではやってもらえました」
スタッフが動けない。それでも「球団映像」を購入できれば、試合中継はできる。コロナ禍だからこそ、この「コンテンツ・ビジネス」がより脚光を浴びたのだ。