「球団が自由に活用できる」球団映像ならではの価値
野球という「コンテンツ」を、球団が握る。この“当然のコンセプト”が、20世紀の球団ビジネスには皆無だったのだ。
例えば、過去のスーパースターたちの映像や、過去の優勝シーン。こうした名場面の映像をつないで、試合前や試合中に、センター後方の大型ビジョンで流したいと企画しても、これまでの球団には、そうした「アーカイブ」の映像がなかった。
つまり、映像を押さえていたテレビ局に、自分たちの映像を借りなければならなかった。簡単に見つからないケースもある。しかも、自分たちの映像をお金を出して借りる。何とも、おかしなことが起こるのだ。
しかし「球団映像」という仕組みであれば、その映像は球団のものだ。そのソフトは、いくらでも価値を生んでいく。
鉄道という「インフラ」と絡めれば、いくらでも活用法が出てくる。髙木が引き合いに出して説明してくれたのは、電車の開閉ドアの上に設置されている「デジタルサイネージ」だった。
「ああいうところの広告にも、試合映像を使ってもらう。例えば、スポンサーになっていただいている企業のCMを作ったりするときに、ライオンズの映像を使ってもらうんです。もし球団が試合映像を持っていなかったら、テレビ局さんから買い取って、スポンサーの方々に提供することになる。制作費を含めると、すごく高くなりますよね」
池袋駅の大型ビジョンで「試合中継を放映」した狙い
その「球団映像」を活用した、新たな“試合中継”にも乗り出している。
西武池袋駅東口の改札へつながる通路の上部に、4面のパネルが4セット、計16面・55インチのデジタルサイネージが設置されている。
このビジョンと、メットライフドームのセンター後方の大型ビジョン「Lビジョン」の映像とを連動させたのは、2020年(令和2年)9月22日から24日の北海道日本ハムとの3連戦でのことだった。
コンピューターのネットワーク会社「シスコシステムズ」と提携し、先発メンバー発表時の映像や、西武の選手がヒットや本塁打を打った際の演出映像、さらには試合中継の映像もそのまま、池袋駅の大型ビジョンに流れたのだ。
つまり、池袋駅に居ながらして、試合の雰囲気をそのまま楽しめるのだ。
球場外の電子看板でこうした試合映像を放映したのは、12球団でも初の試みだった。
これを一日約260万人が利用するターミナル駅で流すのだから、露出効果は大だ。
「コンテンツとして、選手が活躍しているシーンは一番ですからね。それを自前で持っているので、いくらでも作りようがあるというところです。グループ会社に鉄道会社がある強みを生かして、鉄道のインフラを使って、試合をリアルタイムで映すこともできるんです」
しかも、「シスコシステムズ」は、池袋駅での中継が行われた日本ハム3連戦で、BSでのテレビ中継のスポンサーでもあった。
スポンサー企業にとっても、自社の技術力の大きなアピールになる。
「テレビ局としてもうれしいし、当社としてもうれしい。今後は、試合映像の放映権の販売の1つの例ができたかなという感じはありますね」
髙木が指摘するように「野球」という「コンテンツ」を生かしたビジネスは、さらなる可能性を秘めているようなのだ。
「BS、さらにCSがあって有料でテレビを見るような環境にお客様がなってきて、選べるようになってきたというところは、テレビ局にしてみても、コンテンツを増やしていかないといけない。そういうところに、マッチしてきたと思います」
そのために、西武は3年をかけ、メットライフドームエリアを大幅改修してきたのだ。そこには髙木が管掌する「球団映像」が“撒き餌”の働きとなっていることも見逃せない。
「あの球場って雰囲気がいいよな、楽しそうだなと思ってもらえること。それが来場につながりますからね。楽しそうだという雰囲気づくり。
だから、中継映像ってすごく大事なんです。野球をしっかりと見せるというのが大前提ですけど、プラス、やっぱり球場の雰囲気、価値、リアルの良さですね。
コンサートの映像を見たら、やっぱり実際に行きたくなるじゃないですか? その両輪を回していくというのが、中継映像としては大事かなと思っています」
映像から伝わる楽しさが、ドームに来れば2倍にも、3倍にも膨れ上がる。その“わくわく”を増幅させる仕掛けを、映像にも、ドームにも埋め込んであるのだ。
喜瀬 雅則
スポーツライター