経営者の場合、多くは「事業承継」と「相続対策」という2つの課題に直面します。今回は、それらをまとめて解決する信託活用の具体例を見ていきましょう。

事業承継と相続対策の2つが課題

今回の事例における家族の課題は次のとおりです。

 

 

この事例は事業経営者が、事業承継と相続対策という2つの問題を解決するために信託を利用するケースです。

 

Aさんは酒造品の老舗であるX株式会社(株式は全株Aさん所有)の3代目経営者です。
Aさんは配偶者Bさんと長男Cさんと3人で家業を切り盛りしています。次男Dさんは会社の経営には一切関わっておらず、他の会社の会社員として勤務し、すでに独立しています。

 

Aさんは、事業のために不可欠な事業用の土地建物を所有しており、これをX株式会社に賃貸しています。それとは別にAさんは賃貸マンション1棟(20部屋)を所有し、月に約120万円の賃貸収入があります。

 

Aさんは、長男Cさんに家業を継いでほしいと思っており、そのために財産を残そうと考えています。Aさんは遺言によって遺産相続の方法を指定することを考えていたのですが、遺言書では自分の意思通りにならないのではないかと懸念しています。

 

そこで、Aさんは事業経営に必要不可欠な土地建物とX株式会社の株式、賃貸マンションを信託し、土地建物と株式の受益権を長男Cさんに、賃貸マンションの受益権を次男Dさんに与えることで、事業を継続し、かつ兄弟間に争いが起きないようにしようと考えています。

このケースで信託を活用するメリット

①遺言で遺産分割の方法を指定しておいても、遺言書を巡ってトラブルが発生する可能性は否定できませんが、十分注意して信託にしておけばそうしたトラブルになる可能性は少なくなります。また、Aさんの意思にそぐわない分割がなされるといった心配も少なくなります。

 

②あらかじめ信託しておくことで、遺言よりも確実に、事業に必要な財産を後継者に引き継ぐことができます。

 

③事業を承継しない他の相続人に対して、賃貸マンションの受益権を与えることで(事業財産以外の財産を十分に取得させることで)、当該相続人の遺留分減殺請求が事業用財産にまで及び、その結果、会社経営に悪影響が及ぶような事態を防ぐことができます。

 

④受益権という形で不動産を承継するので、会社員であり、賃貸経営のノウハウを持たず、経営のために時間を割く余裕のない人でも無理なく管理を続けていくことができます。

信託を実行すると・・・

①信託契約時
Aさんが所有する事業用の土地建物と賃貸マンション、保有するX株式会社の株式をすべて信託会社T社に信託します。この際、事業用の土地建物を次代以降に散逸させないため、「T社は、X株式会社が存続する限り、X株式会社との間で事業用の土地建物の賃貸借契約を締結する」旨の条項を付けます。
また、信託会社はX株式会社の株式を取得するものの、議決権行使についてはAさんの意向に従ってT社が行うこととします。

 

②Aさんが死亡
配偶者Bさんと長男Cさんが株式と事業用の土地建物と株式の受益権を2分の1ずつ取得し、次男Dさんが賃貸マンションの受益権を取得します。この受益権は相続税の課税対象となります。X株式会社の議決権はBさんの意向に従い、T社が引き続き行使します。

 

③Bさんが死亡
長男Cさんが母Bさんの受益権を取得します。これに関しても相続税の課税対象となります。X株式会社の議決権は、T社がCさんの意向に従い行使します。また、このケースでは信託の契約が一定の期間または一定の事由の発生で終了する旨を定めておくこともできます。


その場合、例えば、「X株式会社の運営を継続する体制が整った段階で信託が終了する」などとしておき、さらに「信託終了時にはCさんがT社の受託していたX株式会社の株式を全部取得する」としておけば、効率的な経営権の承継が可能になります。

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    本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『資産運用と相続対策を両立する不動産信託入門』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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