疲労が限界に達して「とんでもないミス」発生
開業医という仕事は、思っていた以上に忙しいようです。そんな忙しい開業医の日常をご紹介しましょう。
眼科医のA先生は午前中に40人の診察を終え、休診時間中にMR(医薬情報担当者)との面談を2件行います。1社あたり15分、2社で30分の面談が終わる頃には午後2時を過ぎていました。出勤時にコンビニで買ってきたおにぎりとサンドイッチを食べながら、パソコンで正社員とパートスタッフ合わせて15人の給与をパソコンで振込みます。午後診療が始まる30分前でした。
少し仮眠しようと机に突っ伏したところ、目覚めたのは午後診療が始まる5分前。スタッフからの内線電話がなければ、あやうく診療時間まで寝てしまうところでした。
午後も40人の患者を診察し、最後の患者が帰ったのは午後8時。カルテ入力を終わらせ、帰宅したときには午後10時を過ぎていました。
こんな日常を過ごしているA先生の疲労は、ピークを超えています。それが業務に支障を及ぼさないはずがありません。ある日、スタッフの一人が血相を変えて、A先生のもとにやって来ました。「給料の振込み金額が間違っている」というのです。どうやら、20万円を振込むところを、200万円振込んでしまっていたようです。差額はすぐに返金してもらい、笑い話で終わりましたが、他にもミスがあるかもしれないと思うと気が気ではないA先生でした。
「院長がやるべき仕事」かどうか、取捨選択が重要
クリニックの院長は、企業でいえば、社長だけでなく総務部長、経理部長、人事部長、医事部長等をすべて兼務している状態です。業務の要の部分は院長が最終確認しなければなりませんが、領収証の整理や伝票整理等、スタッフに依頼できるものは手放していきましょう。給与計算や社会保険手続き、レセプト業務等についても、多少コストがかかっても外部委託の検討もしてみましょう。
これは、賑わっているクリニックの院長がどこかで必ず突き当たる問題です。一人ですべてをやるのは体力的にも厳しいですし、チェック機能も働きません。肝心の医療の質とサービスが低下すれば、本末転倒です。取り返しのつかないミスを犯してしまう前に、手を打っておく方が無難でしょう。
分業・外注が「潰れないクリニック」のカギ
「経営者」の仕事は多岐にわたります。現場の仕事だけでなく、経理、総務、人事、渉外活動等にまで及ぶため気の休まる時間はありません。クリニックの院長はいわば「一人社長」なので、スタッフが行った業務に基づいて「判断」「決断」を繰り返す必要があるのです。
もう1人、多忙な日々を送る院長をご紹介しましょう。
X耳鼻科クリニックは一日の外来が300人を超える大繁盛クリニックです。近隣の耳鼻科クリニックが2年前に閉院したあと、患者数が激増したのです。もともと丁寧な診察が評判を呼んでいたので、流れてきた患者もそのまま定着しています。
診察は「2時間待ち」が当たり前ですが、それでも患者が連日押し寄せてきます。夜診の受付終了時刻は午後7時ですが、診察を終えるのはいつも午後10時近くです。スタッフに残業をさせている心苦しさから、スタッフにタクシーで帰ってもらうこともあります。
スタッフが退勤したあとも、院長の仕事は残っています。その日の仕事はその日のうちに片づけるべく、午前零時近くまで、カルテ処理、レセプトチェック、主治医意見書の作成等、さまざまな雑務をこなしているのです。月に一度は医師会の会合もありますし、往診も行っているため、深夜の呼び出しもあります。
こうした状態が続くこと2年。繁盛するのはありがたいことですが、これでは長続きしないと判断した院長は思い切った方針転換を行いました。
●カルテチェックは、一日の診察終了後に、受付スタッフが行う
●月初のレセプト請求は、外注業者に依頼する
●主治医意見書等の文書はテンプレート化し、途中段階まで医事スタッフが作成する
●経理事務の一部を医事スタッフに任せ、会計事務所にも追加業務として依頼
●給与計算は社会保険労務士に依頼
このように分業、外注を一気呵成(かせい)に進めていったことで、院長の負担は肉体的にも精神的にも軽くなりました。
クリニックは、小さくとも組織です。院長一人の頑張りでなんとかなることもありますが、決して長続きはしません。スタッフを教育することを前提に、スタッフができるようになった業務はどんどん任せていったほうがよいでしょう。
また、業務量が増えてきた場合は、外注業者の利用も検討しましょう。先生が診療に集中できる環境を整えることが、医療の質と安全の担保になりますし、経営の安定にもつながります。外注業者に支払うコストが惜しいかもしれませんが、「環境を買う」とお考えください。
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
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