非効率な業務では「毎月数十万円の収益」を失うリスク
クリニックを開業している限り、毎月月末〜月初にかけてレセプト週間は必ずやって来ます。「レセプトチェックに追われて残業するのは大変。でも、一時的に我慢すればいい」と割り切っている院長も多いのではないでしょうか?
レセプト請求は地味な事務作業ですが、クリニック経営を支える重要業務なので避けて通ることはできません。医事スタッフのスキルによっては、毎月数十万円単位の収益を減らしている可能性すらあります。だからこそ、レセプトの精度を上げつつ、業務を効率化したいものです。
余計な業務を増やしてしまう主な要因が「請求漏れ」です。まずは「請求漏れ」としてひとくくりにせず、それが電子カルテのシステムで改善するものなのか、あるいは人が改善するものなのかを見分け、分類するところから始めましょう。その作業が終われば、電子カルテのシステムで改善できるところから着手するのがお勧めです。
数ヵ月繰り返していくと、修正事項をパターン化できるようになるので、パターン化した修正内容を電子カルテの「初期設定」として組み込んでいきます。返戻(減点)レセプトの対策についても、やることは同じです。例えば、要件を満たせば自動算定できるようにしたり、過剰請求を防ぐため、算定が一定数を超えるとチェックがかかるようにしたりするとよいでしょう。繰り返し発生する業務を自動化することが、作業時間の短縮につながります。
「請求漏れ」を着実に減らすための業務手順
電子カルテへの記載(入力)があれば、コスト請求時にチェックをかけられますが、そもそもヒューマンエラーにより入力できていなければ、チェックをかけられません。コンプライアンス上、電子カルテでは自動算定できない項目があるからです。電子カルテの標準機能として、アラートでチェックがかかるようになっていますが、チェックのかけ方が分からなければ、この機能を使うこともできません。
そういったヒューマンエラーを減らす方法としてご提案したいのが、業務手順の見直しです。全スタッフとミーティングを行い、問題点(課題)を特定するところから始めるとよいでしょう。
保険請求の請求漏れに悩んでいるクリニックに共通するのは、「請求漏れの原因を突き止められていない」ことです。
A内科クリニックの事例をご紹介しましょう。A内科クリニックにおいて、採血が必要な患者は診察前に採血を行うことが決まっています。検査項目はルーチン化しているため、項目漏れが発生することはありません。一部、検査会社に外注する項目もありますが、グルコース、PT、PT-INR等の基本的な項目については院内で検査できる体制を整えています。
検査結果のカルテ入力を担当している看護師が処置室で同時に数人の患者に対応しなければならないときに、後回しにした入力作業が未処理のままになってしまうのが「入力漏れ」の原因だと分かりました。また、検査結果の用紙をファイルに入れて診察に回す際、間違って別の患者ファイルに入れてしまっているケースもありました。
クリニックによって業務フローやルールが異なるので、汎用性のある解決策はありません。しかし、ある程度、傾向は絞られるので、いくつかご紹介しましょう。
●医療秘書(クラーク)の雇用も視野に入れながら、看護師ではなくクラークが入力作業を担当する仕組みを作る
●入力漏れがあったとしても、会計処理を行うまでの段階でチェックする工程を設ける
毎月のレセプト請求で査定がかかった項目を列挙し、どの程度改善できたかを定点観測していきましょう。こういった取り組みを地道に続けることで、「請求漏れ」は着実に減らせます。
ただし「請求漏れゼロ」を目指すのは本末転倒
「請求漏れ」は減らせるに越したことはありませんが、注意すべきはその費用対効果です。時間をかけた分だけ効果は出ますが、限られた時間の中でそこに時間を費やす価値があるのかどうかという見極めは大切です。金額面で改善効果が低い項目については後回しでいいでしょう。改善する必要なしと切り捨ててもいいかもしれません。
私たちはクリニックから「レセプト請求代行業務」を受託しています。依頼理由の多くを占めているのが、「レセプト担当のスタッフが退職するから」というものです。業務を進めていくに当たり、現状のレセプトの精度チェックを行うのですが、その中身を点数評価すると40点から90点まで、クリニックによって大きな差があります。レベルを上げていかなければなりませんが、改善方法には工夫が必要です。
Bクリニックの事例を紹介しましょう。請求後に郵送されてくる「増減点一覧表」により減点や返戻のあったレセプトの内容を確認したのち、院長先生と打ち合わせをし、ミスをなくすための作業方法や手順を詰めていきました。そこで院長が特に意識している項目として挙げたのが、「ジェネリック医薬品に対する病名チェック」でした。
しかし、電子カルテの自動チェック機能を活用しても、「ジェネリック医薬品の病名漏れ」はチェックリストに挙がってきません。となると、処方箋料を算定しているレセプト全件を目視で確認する必要が出てきます。もちろん時間をかければチェックできますが、そんな手間のかかる作業に膨大な時間を投下すべきでしょうか?
レセプトに限った話ではありませんが、業務改善は「効果の高いもの」から取り組んでいくのがセオリーです。院長先生はレセプトについてはほとんどの方が門外漢です。「気になる項目」が「優先順位の高い項目」であるとは限りません。
だからこそ、作業手順を組み立てる前に内容を精査することが大切なのです。「増減点一覧表」から査定された内容を検討し、減点点数の大きい項目、減点件数の多い項目に分けるプロセスは、パレート図こそ使いませんが、電子カルテのデータを使って収益の柱となっている主病名や診療行為などの重点項目を見つける手法と同じです。
重点項目を絞ったあとは、役割分担を明確にします。必要な作業をリストアップし、「ドクターがすべきこと」「受付スタッフがすべきこと」「レセプト業者がすべきこと」に分類し、それぞれが手立てを考えていきます。毎日の業務とレセプト作業時のプロセスを改善し、その仕組みを定着させたら次の項目に着手する――。このプロセスを繰り返していけば、レセプトの精度は高められます。
レセプト請求の業務改善プロセスは、受験勉強に似ています。志望校の合格ラインとなる6~7割の得点を稼ぐためには、苦手な分野や正解するまでに時間がかかる問題は後回しにして、得点しやすい分野や出題されることが多い分野に絞る方が効果的でしょう。「請求漏れ」はクリニックの永遠のテーマですが、「100点」にする必要はありません。それぞれの「合格点」を目指しましょう。
業務効率化のために知っておきたい「ありがちなミス」
最後に、レセプトチェック時に多い修正事項の一部をご紹介しておきます。日常業務の中で解決しておくことで、レセプト業務はずいぶん楽になるはずです。いつもより意識して取り組んでみるように受付スタッフに声をかけてみてください。
●特定疾患処方管理加算(28日を超える場合は65点算定できるが、18点で算定されている)
●多剤投与の算定ミス
●リハビリテーションを行った場合、外来管理加算は算定できない
●検査コメントが漏れている
●健患比較対照時のエックス線撮影時の取り扱い
●鶏眼・胼胝(べんち)処置は同一部位について、その範囲にかかわらず月2回算定できる
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
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