レセプト週間にかこつけて「残業したがるスタッフ」
クリニックには、正社員かパートかを問わず、残業したがる医事スタッフが少なくありません。必要な残業であればいいのですが、そうでない残業もあります。給料を増やしたいがために、あえてゆっくり仕事をしたり、必要のない仕事を増やしたりして残業する人もいます。経営の観点からいえば、明らかに非効率的で非生産的です。
ではそういった残業を減らすにはどうしたらいいのでしょうか? Xクリニックの事例で考えてみましょう。
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正社員のAさんは、医療事務のベテランスタッフです。この人がいなければクリニックのレセプト請求はできないといっても過言ではありません。
毎日、70人を超える来院者が続くXクリニックです。Aさんは、月初のレセプト業務に向けて準備に余念がありません。前日のカルテをチェックし、週末にはもう一度、1週間分をチェックするという手順を取っています。月末月初の2週間は、受付業務は他のスタッフに任せて、診療室にこもりきりで作業をしています。しかも午前診と午後診の間の休憩時間も作業を続けているので、残業代は1ヵ月5万円にものぼります。
そんなAさんに院長は困惑気味ですが、レセプトはAさんの独壇場なので、目をつぶるしかありません。彼女の仕事はブラックボックスになっており、監視機能も働かないので、強く指摘することもできないのです。しかもAさんが、漏れていた病名と医師コメントの記入を頼んでくれるのはいつもギリギリのタイミングです。
院長「もう少し早く報告してくれるとありがたいよ」
気を使いながらそう伝えても、
Aさん「これだけたくさんのレセプトを一人で処理していると、毎日チェックしていても時間がかかります」
と自分の正当性を主張します。
そう言われるとなにも言えなくなる院長ですが、なんとか解決しなければコストはかさむばかりです。院長はコンサルタントに相談してみました。
「レセプトを印刷して目でチェック」は非効率の極み
院長「Aさんの仕事のやり方について改善点はないのでしょうか?」
コンサルタント「電子カルテの活用が上手くできていないように思います。レセプトをすべてプリントアウトしてチェックしなくても、『キーワード検索』機能を使えば、チェックが必要な箇所をピックアップできます。基本的に、毎日の確認作業も必要ないでしょう。Aさんの残業時間もなくなると思いますよ」
院長はさっそく、Aさんに電子カルテを使った確認作業の方法をレクチャーしてもらい、来月からはこの方法で仕事をするように指示しました。
ところがです。残業時間はいっこうに減りません。以前と変わらず、月末月初の2週間は空いている診療室にこもりきりでレセプト業務をしています。
不審に思った院長がAさんに様子を尋ねると、思いもしない答えが返ってきたのです。
Aさん「院長、教えてもらった方法では合っているのかどうか分からないので、もう一度プリントアウトして全件チェックしています。返戻や査定を受けると困りますので、レセプトは念入りに点検した方がいいと思うのですが…」
院長は開いた口がふさがりませんでした。
非効率な業務を続けるなら、電子カルテを使う意味なし
院長自ら業務改善の陣頭指揮に当たっていたにもかかわらず、元の木阿弥となってしまいましたが、新しい仕組みを定着させるには必ずといっていいほど抵抗力が働きます。熟練者ほど、慣れたやり方を変えるのは嫌がるものです。システムが定着するまでの間は、定期的に現場作業をチェックしましょう。
スタッフは「レセプトの返戻や査定を受けるのは自分たちの責任である」という言い分を主張しますが、実際にどれくらい査定や返戻があるのかを検証してみる必要があります。点検により修正されたレセプト金額の合計とスタッフが事務処理に要した時間を併せて検討してみましょう。
そもそもレセプト業務に費やす時間を短縮するために、電子カルテを導入、活用しているのです。ドクターのカルテ入力が完了し、会計処理に進んだ段階で、原則として新たな作業をする必要はありません。繁忙期や忙しい時間帯等は診療中の記入は最低限に留めておいて、時間外に病名やコメントを追加することはあるかもしれませんが、それはドクターの仕事であり医事スタッフの仕事ではありません。
「変化を拒むスタッフ」は医院経営の足枷
古参の医事スタッフの中には、残業代をもらいたいがために一人で抱え込むタイプの方がいます。電子カルテを導入してもなお、「機械は難しい」という言い訳を盾に取って覚えようともせず、従来のやり方を踏襲しています。ボタン一つで集計できて、チェックポイントのピックアップも一発検索できるにもかかわらず、ボタンを押さないのです。
時代の進展とともに、電子カルテのスペックや機能は向上しています。変わらないのは「人」の方です。やがてAIやIoTが医療業界にも進出してきたとき、変わることを拒んできた人たちはどうなるのでしょうか?
民間企業においては今や、製造業やサービス業、建築業等、どこの業界も人手不足に悩み、「省人化」「無人化」の大号令のもと、機械化、デジタル化を進めています。機械に任せられる部分はどんどん任せながら、人がしなければならない仕事とはなにか、見直してみましょう。
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
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