大人にもおすすめの絵本、『かようびのよる』
最後は、大人へおすすめしたい絵本を紹介します。といっても、実はどんな絵本も、子ども「から」十分に楽しめることを目指して作られているので、年齢のカテゴライズはあってないようなものです。
ここでは、特に大人になってからの方がより醍醐味を噛みしめられる作品を取り上げましょう。
月のきれいな季節なので、『かようびのよる』はどうでしょうか。開けば、たちまち非日常にワープできる一冊です。
表紙には、時計台が大きく描かれています。ついそちらに目がいきますが、この絵本の主役は、時計台の周りに浮かぶ緑色の円盤のようなものの方です。これ、何だと思われますか?
この円盤は、蓮の葉っぱです。しかも、一つずつに大きなカエルがのっかって、空を飛ぶ蓮の葉っぱなのです。
蓮に鎮座したカエルの大群は、「かようび、よる8時ごろ」に、水面を静かに飛び立ちます。大空高く舞い上がり、電線のカラスをかすめ、夜更かしの人々の暮らしをかすめていきます。
カエルたちは、しごく楽しそうです。にんまり、ニヤニヤ、薄い笑いを一様に浮かべながら、ふわふわと空中を漂います。
動物たちは、いつもの晩とは異なる風景に、ぎょっとしています。一方、これに気づいた人間は、そう多くはないようです。
皆が寝静まった、何の変哲もない夜に、目を見張るこんな光景が間近で繰り広げられているとしたら……、想像するだにドキドキしてしまいませんか。
素っ頓狂とも言えるこのイメージは、私たち大人をつかの間の異世界へとワープさせてくれます。言葉の少ないのも、とっぷりと非日常に浸かるのを大いに手助けしてくれます。
何気なく開いた絵本に、思いがけない場所に連れていかれる感覚。もしも本書を手にした大人が、病気への不安を抱えていたならば、待合室で絵本を開くひと時が、意外と気分転換に役立ってくれるのかもしれません。