(※写真はイメージです/PIXTA)

妻に先立たれた後、ある女性と20年以上、夫婦同然の生活をしていた丙野春夫さん。財産を、前妻との間の2人の子供へ相続、内縁の妻へ遺贈する遺言書を作成しましたが、そこには重大な漏れがありました。遺言書を作成する際の注意点を、行政書士の山田和美氏が解説します。※本連載は、書籍『「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

春夫さんが遺言書に入れておくべきだった記載

まずは、前述したように、遺言書を自筆証書ではなく、公正証書で作成しておくべきでした。公正証書遺言であれば、検認の手続きが不要であるためです。

 

また、手続き面以外にも、そもそも争いが予見される相続関係である以上、紛失や隠匿・偽造のリスクがなく、無効になるリスクも低いという点でも、公正証書で作成しておいたほうが安心です。

 

次に、遺言書のなかで遺言執行者を選任しておくべきでした。遺言執行者は相続発生後に選任することも可能ですが、やはり手続きのスピードや煩雑さ等を考えると、あらかじめ遺言書内で選任しておいたほうが安心です

 

最初から遺言執行者が選任されていれば内縁の妻が手続きに奔走することなく、遺言執行者に手続きをしてもらえました。

 

遺言執行者には、遺言書の作成サポートを行なった専門家が就任する場合もありますし、相続人等財産をもらう人が就任する場合もあります。未成年者や破産者以外であれば制限はありませんので、あらかじめ信頼できる人に依頼し、遺言書に記載しておいてください。

 

なお、遺言執行者は、民法の定めにより、「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とされています。そのため、特段詳細な記載がなくとも執行に必要なすべての行為が可能なはずです。

 

しかし、金融機関の内部ルールにより、具体的な職務が明記されていない場合には遺言執行者のみでは手続きができず、相続人の同意が必要という対応をする場合があります。

 

こうした場合に備えて、遺言執行者の指定とあわせて「権限の記載」も入れておくと安心です

 

具体的には、次のようになります。

 

* * * * *

第○条 遺言者は、本遺言の執行者として、行政次郎(昭和50年1月1日生、住所 愛知県一宮市XXX1丁目1番1号 職業 行政書士)を指定する。

 

第○条 前条記載の遺言執行者は、遺言者名義の不動産の名義変更、遺言者名義の預貯金の名義変更、払い戻し、解約、遺言者名義の証券口座の名義変更、解約、有価証券の換金、貸金庫の開閉、解約、内容物の受領その他本遺言を執行するための一切の権限を有する。なお、遺言執行者は各手続き又は行為をするにあたり、相続人の同意は必要としない。

 

第○条 前記遺言執行者への報酬は、遺言執行時の遺言者の有する財産の評価額合計の○%とする。

* * * * *

 

権限の記載は、遺言者の有する財産に応じて、必要な内容を記載します。また、専門家に執行者を依頼する場合には報酬が生じます。事務所により金額が異なりますので、その金額や計算方法についても確認しておきましょう。

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残念な実例が教えてくれる 「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方

残念な実例が教えてくれる 「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方

山田 和美

日本実業出版社

昨今の終活ブーム、エンディングノートブームの影響で、 ・そもそも法律要件を満たしていないので効力がない ・遺族がもめやすい検討事項がまったく解決されていない ・相続税は抑制されたようだけど、これでは家族の溝を深…

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