(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科での薬物治療は、医師にだけ可能な行為です。問診の上での処方が重要ですが、単に「薬を処方するだけ」となりがちであるのが精神医療の現実です。「精神科医の対人援助スキルが乏しい」と医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏は語ります。なぜ精神医療の現場には、こうした問題が起きているのでしょうか。

「5分程度で診察終了」の恐ろしい理由

患者を疾患名でカテゴライズするだけの大雑把な診察で、そこに紐づいた大雑把なアドバイスと画一的な処方を提供するだけでは、十分な治療成果は望めません。よって医師として適切な対人援助をするためには、患者から必要な情報を聞き出すための十分な診察時間が必要です。

 

しかし、これには病院経営の面で、大きな壁が立ちはだかります。それは、健康保険の保険点数算定基準の問題です。

 

ほとんどの病院では、最も多くの情報収集が必要な初診では、30分の枠を取っている一方で、再診では、5分程度しか割いていません。5分未満で診察を終わらせてしまうと55点の精神科継続外来支援・指導料しか得ることができません。

 

5分以上であれば、330点を算定できる「通院精神療法(30分未満)」が請求できます。5分以上の診察であれば5分であっても29分かけても点数は変わらないので、5分で診察を終わらせて、回転率を上げるのが病院経営の面では最も効率的です。これが、多くの病院で再診が5分程度となってしまう理由なのです。

 

しかし、どんなに効率良く患者の話を聞いたとしても、5分の診察ではとても十分な対人援助はできません。

 

30分を超える診療をすれば、「通院精神療法(30分超)」に分類されるので、400点を算定できます。しかし、5分の診察と比較すると、点数は70点しか増えないのです。診察に6倍の時間をかけても、点数は2割程度しか増えないため、やはり5分で診察を終わらせて、なるべく多くの患者を診るほうが経営面では圧倒的に有利です。

 

勤務医であれば、こうした回転率を重視した診察をするよう明確に経営側から指示を受けるケースは少ないかもしれませんが、現実としてはよほど患者が少ない病院でない限り、診察に時間をかけ過ぎないことが暗黙の了解となっているのです。

次ページ”ボランティア診療”をしても満足度は低下する悪循環

※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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