(画像はイメージです/PIXTA)

欧米から非難・糾弾されている中国の新彊ウイグル問題の解決には相当な困難が予想される。米国の思惑のみならず、中国の知識層の思考や認識など、多くの要素が絡み合い、極めて複雑な様相を呈している。5つの側面から読み解いていく。まずは、米国の使う「ジェノサイド」が意味するもの、中国の一般の人々の受け止め方、そして人権に対する考え方や力点の違いについて。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

第2の側面:中国の一般の人々の受け止め方

中国の一般の人々の受け止め方については、2つの点が指摘できる。第1に、筆者の友人も含め漢民族の知識層は一般に、中国当局の新彊ウイグル政策の基本は自治区の貧困を解消することにあると認識している。実際近年、自治区一般公共予算の7割以上が社会保障、医療、教育などの民生関係支出だ(2020年4054億元、公共予算支出の73%)。ウイグル人からは、欧米が言うconcentration campも単なる人材育成教育センター(教培中心)にすぎず、例えばそこでプートンフア(普通話。中国語の標準語)を習得することによって、より高所得の雇用機会に恵まれ生活が豊かになったとの声があり、また、センターを「収容所(集中営)」「監獄」などと呼ぶ欧米に対し、侮辱だと怒るウイグル人も多いという。

 

ただ、こうした声がどの程度ウイグル族全体の意識を反映しているかが問題となる。特に漢民族知識層の友人となると、一般にウイグル族のなかでも恵まれたエリート富裕層である場合が多いと言われる。

 

また自治区の貧困を論じる漢民族知識層は、かつて植民地を見下した西側列強に通じるものがあるとの声があり、教育や研究に関しても、漢民族の学者が例えば天山学者といったスキーム(「天山山脈」からとった名称で、自治区の大学などに招聘教授として滞在)で、北京などから自治区に赴き、現地の水準を上げるといった発想がある。

 

自治区の1人当たり所得は2015〜20年、全国平均の7割強で、農村部は全国都市部平均の約3分の1。全国31省市区のなかで、下から5番目程度の水準で推移している。物価水準を考えると実質格差はそこまで大きくはないだろうが、少なくとも名目格差が縮小している傾向は認められない。2021年に入り、新型コロナのパンデミックで落ち込んでいた輸出の回復の恩恵を受ける広州など沿海部と、逆にパンデミック対応の投資が一巡した内陸部の格差が拡大しているが、自治区も同様で、上期の水準は全国平均の6割弱、31省市区のなかで西蔵(9639元)を除いて最も低い(図表)。

 

(注)1人民元は約17円(2021年7月現在)。 (出所)中国国家統計局、新疆ウイグル自治区統計局、2021年7月30日付「天山網」
[図表]1人当たり名目可処分所得比較 (注)1人民元は約17円(2021年7月現在)。
(出所)中国国家統計局、新疆ウイグル自治区統計局、2021年7月30日付「天山網」

 

第2に、中国の大半の人々は、欧米政府・メディアは中国の欠点だけを取り出し中国を貶めようとする傾向が強く、本件もそうした政治的プロパガンダの1つにすぎないとみているようだ。特に、欧米のジェノサイド非難は中国の一般の人々を怒らせ、中国当局の新疆ウイグル政策に必ずしも全面的に賛同していない人も、当局への批判を抑え、批判の矛先を欧米に向けるようになっているという指摘がある。

 

自治区の労働環境に懸念を表明して、新彊産綿花を使用しないとした米NIKE、スウェーデンH&M、スペインZARAなどに対する大規模不買運動も起こっている。中国海関(税関)総署は6月、2020年6月〜21年5月の輸入品検査結果として、これらの社の製品から子供の健康に悪影響を及ぼすおそれのある有害物質が検出されたとし、そうした製品は没収・廃棄または送り返された旨公表した。海関総署は通常の定期検査としているが、国内消費者のこれら企業に対する反発が大きいことをみて、国内世論の支持・共感を得ることができると判断したうえで公表したことは間違いない。実際、海関総署の発表後、中国のネット上では発表を称賛し、今後は海外ブランド製品ではなく国内製品を買うべきだといった声が高まっている。

 

欧米は新彊ウイグル問題で非難のトーンを高めることによって、中国内で欧米の非難に同調する動きが強まり、世論が分断されることを期待したのかもしれない。しかし実際には、むしろ欧米に対する中国内の結束を高める結果になっている。その意味では、少なくともこれまでのところ、欧米の企図は失敗に終わっているということになるのではないか。

 

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