第3の側面:人権に対する考え方、力点の違い
習近平政権は昨年来、いち早く新型コロナ感染を抑え込んだ中国の体制は欧米の「民主体制」より優れているとし、「中国式民主」を外交面で多用している(連載『李克強と習近平、全人代で明らかになった「微妙なトーンの差」』参照)。
3月、戦狼外交として注目された、米バイデン政権誕生後初の中米外交トップ会談での、楊潔篪党政治局委員の「米国には米国式民主、中国には中国式民主がある」、4月の米シンクタンクとの会合での王毅外相の「民主はコカコーラではない」、7月1日の共産党創立百周年祝賀行事直後に中国が開催した「中国共産党・世界政党サミット」での、習氏の「民主は各国人民の権利で、少数の国の専売特許ではない。民主を実現する方式はさまざまで、同じではない」などの発言がその典型だ。これら「民主」に関する主張は、そのまま「人権」に関する主張にも繋がっている。
それでは「中国式民主」、中国が言う「人権」が具体的になにを意味するのか、欧米の概念とどこが異なるのか、必ずしも中国当局から明確な説明はない。上記の中国外交部の反発ぶりから、少なくとも、中国もジェノサイドや強制労働、人種差別が人権犯罪になると認識していることには変わりない。ただ、この問題との関連で、中国は米国の銃撃事件多発に象徴される社会不安に言及することが多い。上記、国務院の人権に関する一連の白皮書は、「生存権と発展権が最重要の基本的人権。人民の幸福な生活が最大の人権」とし、また「小康社会の建設完了は人権の基礎を固め、人権の持つ意味を豊かにし……(中略)……人権の全面的発展と全国民享受を意味し……(中略)……人類の人権尊重と保障における奇跡を創造した」などとしている。
さらに習氏は西蔵視察の際、「西蔵の社会経済が発展し人民の生活が改善していることが、党中央の西蔵政策が完全に正しいことを証明している」とし、有名な「共産党なくして新中国なし(没有共産党就没有新中国)」という革命歌のフレーズを引用し、「共産党なくして新西蔵なし」と述べている。高い経済成長によって貧困を解消し、社会の安定を達成した中国共産党の統治は、人民の「人権」を保証した正当性のあるものとの論理だ。
中国地元誌は、欧米には人権問題において、次の5つの「原罪」があるとの議論を展開している(3月26日付騰訊網)。すなわち、①植民地主義の歴史、②他地域への動乱輸出(2001年9.11以降、米国が他地域で展開した「反テロ活動」)、③人種差別(米国の黒人差別、豪を始め欧米にみられる白人至上主義)、④内政干渉(米国のラテンアメリカへの干渉など)、⑤ダブルスタンダード(自分が同じことをしていて、他人を批判するのはおかしいとの議論。9.11後に米国が「愛国者法」を制定したこと、欧米は「香港国家安全維持法」を、人権を抑圧するものと非難しているが、各国とも同種の厳しい法律を持っているなど)。
次回は、「第4の側面:出生率に伴う不透明性」「第5の側面:政治外交問題化への懸念」について詳述していく。
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