新彊ウイグル問題に潜む、5つの「複雑な側面」
中国の新彊ウイグル問題には複雑な側面があることに留意する必要だ(『欧米が糾弾する「新彊ウイグル問題」中国当局の反発と警戒』参照)。それはすなわち、①「ジェノサイド」が意味するもの、②中国の一般の人々の受け止め方、③人権に対する考え方、力点の違い、④出生率に伴う不透明性、⑤政治外交問題化への懸念である。
第1の側面:「ジェノサイド」が意味するもの
「ジェノサイド」という用語は通常、特定の国家、民族などを集団殺戮で滅ぼすとのニュアンスで受け止められることが多く、中国語では「種族滅絶」と訳されている。しかし、欧米は必ずしも自治区で物理的にそうしたことが行われていると言っているわけではなく、ウイグル族を強制的に多数派の漢民族に同化させようとする中国当局の政策は、民族としてのアイデンティティーを尊重しない、いわば「文化的ジェノサイド」だと批判している面が強いと思われる。そこに中国と欧米の間に大きな認識の齟齬があるようにみえる。あるいはそうした齟齬は双方の意図的な言動によるところが多いかもしれない。
国連の「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」、通称「ジェノサイド条約」の第2条は、ジェノサイドを「国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を集団それ自体として破壊する意図をもって行われる次のいずれかの行為」と定義している。すなわち、①集団の構成員を殺害すること、②集団の構成員に重大な肉体的または精神的危害を加えること、③全部または一部の身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に集団に課すこと、④集団の出生を妨げることを意図した措置を課すこと、⑤集団の子供を他の集団に強制的に移すことだ。
米国はジェノサイドという用語を意図的に使うことによって、中国が自治区で物理的に集団殺戮をしているような印象を世界に与えることができる一方(そして、そうした「誤解」に対しては、否定も肯定もしない)、国連の上記の厳密な定義に従えば、①がなくても②〜⑤のどれかにあてはまりそうな行為があれば、ジェノサイドという用語を使用しても嘘にはならないとの読みだろう。他方、中国は米国のそうした意図を充分わかったうえで、あえて「米国は中国が集団殺戮をしているという大嘘を言っている」と応酬しているという構図ではないか。
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