新疆ウイグル自治区…出生率に伴う不透明性、恣意的な「政治外交問題化」への憂慮 (画像はイメージです/PIXTA)

新彊ウイグル問題への対処に、中国は思いのほかナーバスになっている。2020年版経済社会発展統計公報から、昨年は存在していた出生率等の人口関連データを削除。また、2021年6月の国連人権理事会では90ヵ国以上が中国支持を表明したと強調した。複雑に絡み合うこの問題について、5つの側面から読み解いていく。今回は、中国の出生率に伴う不透明性、政治外交問題化への懸念について。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

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新彊ウイグル問題「5つの複雑な側面」とは?

中国の新彊ウイグル問題の複雑な側面について、これまで2回にわたって解説してきた(『欧米が糾弾する「新彊ウイグル問題」中国当局の反発と警戒』『新彊ウイグル問題…米国「ジェノサイド発言」の真意』参照)。ここでは、前回解説した①「ジェノサイド」が意味するもの、②中国の一般の人々の受け止め方、③人権に対する考え方、力点の違いに引き続き、④出生率に伴う不透明性、⑤政治外交問題化への懸念につて見ていく。

第4の側面:出生率に伴う不透明性

自治区の出生率(人口千人当たり出生数。ウイグル族だけでなく漢民族も含む自治区全体の数値)は自治区統計局統計で2017〜19年大きく低下している(15.88→10.69→8.14。図表1参照)。これを基に、豪シンクタンクが「2019年出生率が17年比48.74%低下した」とするレポートを発表した(つまり、8.14÷15.88)。

 

(出所)全国数値は中国国家統計局、新疆ウイグル自治区の数値は2018年までは自治区統計局 「2019新彊統計年鑑」、2019年は同「経済社会発展統計公報(2019年版)」
[図表1]新疆ウイグル自治区の出生率と死亡率(人口千人当たり出生率、死亡率) (出所)全国数値は中国国家統計局、新疆ウイグル自治区の数値は2018年までは自治区統計局
「2019新彊統計年鑑」、2019年は同「経済社会発展統計公報(2019年版)」

 

これに関連して、5月13日中国外交部記者会見で記者から質問が出されたが(外交部によると、ロイター通信も新聞弁公室に同趣旨の質問を提出していた旨だが、記者会見の場では新華社が質問し、外交部が反論を展開)、外交部は「48.74%低下という“論断”がどこから出てきたのか(従何而来)承知しない」として明確な回答を避け、もっぱら長期的に自治区で漢民族人口が減少する一方、ウイグル族人口が増加している傾向を強調した。

 

民族や宗教に関連する調査研究を担当する党中央統一戦線工作部が1月に発表した「自治区人口変動状況分析報告」は、近年(2018年までのデータをカバー)の出生率低下の要因として、①計画出産(生育計画)を厳格に実施した効果が現れたこと、②自治区、特に少数民族の相対的に遅れている経済社会発展水準が改善した結果でもあり、出生率と経済社会発展水準に相関があるとする一般的な人口理論にも合致した自然な動きであることを挙げている。

 

ただ、①は具体的になにを指すのか(なにが変わったのか)、②については、下記図表2の通り、全国平均との所得格差はむしろ拡大しているにもかかわらず、出生率の低下が全国平均以上に著しいのはなぜか、明確な説明は見当たらない。

 

(注)1人民元は約17円(2021年7月現在)。 (出所)中国国家統計局、新疆ウイグル自治区統計局、2021年7月30日付「天山網」
[図表2]1人当たり名目可処分所得比較 (注)1人民元は約17円(2021年7月現在)。
(出所)中国国家統計局、新疆ウイグル自治区統計局、2021年7月30日付「天山網」

 

中国は人口爆発を抑えるため、長らくいわゆる「一人っ子政策」をとってきたが(少数民族は例外的に2人目、3人目の出産が認められていたもよう)、2016年に「二人っ子政策」に移行、そして2021年5月、3人目の出産を認める緩和措置を決定。労働力人口が減少に転じている中(『中国5ヵ年規画で焦点となる向こう5年間の成長率目標は?』参照)、なぜ制限を完全撤廃しなかったのかという疑問が湧く。出産制限関連事務を担当する部門、大量の人員の処遇という問題が大きかったようだが、完全撤廃した場合、少数民族の人口だけが急激に増加することを懸念したとの見方もある。

 

6月に自治区統計局が公表した新彊第7次人口普査(10年に1回行われる全国人口国勢調査の自治区部分)では、過去の数値に遡って修正した結果として、ウイグル族人口は安定的に増加しており、2020年11月時点で前回普査(2010年)比162万人増になったとした(下記図表3参照)。記者会見では、「ウイグル族人口は普査前、関係機関の関連資料やサンプル調査に基づき推計されていたが、全国統一普査に合わせ、国際慣例や通常手法に従った最新の普査データを得たため修正した」とし、広東省や東北地区の人口も同様に修正されている点を強調した。

 

他方、漢民族人口については、記者会見で修正値への言及はなく、前回普査比217万人増、うち195万人は自治区外からの労働者流入で、これは自治区の成長率が全国平均より高く就業機会が大幅に増えていることを反映したものと説明している(以上、6月16日自治区統計局記者会見)。

 

なお、検索エンジンと検索ワードにもよると思われるが、この記者会見のもようは、中国百度(バイドウ)で検索すると、6月14日付中国青年報掲載記事がヒットし読むことができる。通常の日本の各種サイトで検索すると、なぜかしばらくの間、在トロント中国領事館中国語サイトしかヒットしなかったが、9月には在独、在韓国の中国大使館中国語サイトにも同内容のものが掲載されていることが確認できた。自治区統計局ウェブサイトにはアクセスできず、同サイトでこの記者会見の記録が公開されているのか確認できなかった。

 

(出所)青線と黒線実線は新彊ウイグル自治区統計局「2019新彊統計年鑑」、赤線と黒線点線は自治区第7次全国人口普査結果 として発表された数値(2021年6月16日在トロント中国領事館中国語サイトに掲載された自治区統計局記者会見)
[図表3]新彊ウイグル自治区民族構成(万人) (出所)青線と黒線実線は新彊ウイグル自治区統計局「2019新彊統計年鑑」、赤線と黒線点線は自治区第7次全国人口普査結果として発表された数値(2021年6月16日在トロント中国領事館中国語サイトに掲載された自治区統計局記者会見)

 

普査には出生率データはなく、記者会見で近年人口増加率が鈍化している傾向について質問が出された際に、2019年までの人口自然増加率にのみ言及している。すなわち、2010年10.71%、2015〜19年は各々11.06%、11.08%、11.40%、6.13%、3.69%などとし、全国平均と同じように2018年から増加率が鈍化しているが、なお全国平均よりは高いと説明している。ここで言及された人口自然増加率の数値は、これまで自治区の統計年鑑や経済社会発展統計公報で発表された出生率と死亡率(上掲、図表1)の差に一致している。つまり、普査では人口数は過去に遡って大幅に修正されたが、出生率や死亡率の修正はなかったことを意味しており、統計全体の整合性に疑問が残る。

 

また、2021年3月に発表された2020年版経済社会発展統計公報には、前年版にはあった出生率など人口関連データが消えている(つまり、2020年出生率はなお不明)。そもそも通常、中国の全国ベースの主要な経済統計は中央の国家統計局サイトなどから、一般の者でも容易に入手できるのに対し、自治区の統計はなかなか関連サイトにアクセスできない、サイトが整備されていないなどで入手が難しい。以上のような中国当局の説明不足と透明性に欠ける対応は、欧米の疑念や非難を増幅させる結果になっている。

 

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。

著者紹介

連載新彊ウイグル問題が秘める「5つの複雑な側面」

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