(※写真はイメージです/PIXTA)

慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、知られざるオーストラリアの教育の利点と問題点を紹介していきます。

登下校の時間は学校周辺が「送迎車」でいっぱいに

登下校の時間は学校周辺が車でいっぱいになる。子どもたちを送迎する保護者の車だ。オーストラリアでは道路に駐車スペースが設けられていることが多いが、登下校時はそのスペースが車であふれている。停車の場所や時間を限定する学校もあるが、大規模校では車が延々と連なる。

 

私が訪問した学校では副校長が毎日車の誘導に追われていた。スクールバスや徒歩で通学する生徒もいるが、多くは保護者の送迎だ。防犯のためでもある。特に、小学生は子どもだけで通学することはほとんどない。日本のような集団登校もない。低学年までは保護者の送迎が義務づけられている。

 

中学生以上になると自転車やキックボード、スケートボードなどで登校する生徒もいるが、オートバイはほとんど見かけない。登校した子どもは始業のベルが鳴るまで教室に入れない。グランドや通路で待機する。学校は登校時間を限定し、早過ぎない登校を呼び掛けている。教師が出勤するまでは監督者がいないからだ。

 

特に、小学生は時間になるまで保護者が付き添っていなければならない。校内であっても安全確保の観点から子どもを監督者のいない状態にすることを避けているのだ。責任の所在を明確にするという意味合いもある。教師への受け渡しが済むまでは保護者の責任、それ以降は学校の責任となる。その点は日本よりはるかに厳格だ。

 

登下校時には保護者と先生の情報交換も行われる。送迎のついでに子どもの様子を伝え合ったり、気になることを相談したりする。保護者同志のコミュニケーションも行われる。教師と保護者が日常的に情報交換できる場があるのは良いことだと思う。顔を合わせてあいさつするだけでも関係が深められる。

 

登下校の時間帯に学校の近くで「止まれ(STOP)」と書かれた大きな標識を持った人を見かける。子どもたちが道路を安全に渡れるように誘導する人だ。標識の多くはロリポップ(棒付きキャンディ)型なので、親しみを込めてロリポップレディ(lollipop lady)とかロリポップマン(lollipop man)と呼ばれている。かつて日本でよく見かけた「みどりのおばさん」のオーストラリア版といったところだろうか。

学校の駐車場に生徒の車が停まっていることも

学校前の道路に停まっている車にPというステッカーが貼られていた。校内の駐車場でも見かけることがあるが、生徒の車だ。ステッカーは仮免許用らしい。ちなみに、Pは仮免(probationary)の頭文字だ。オーストラリアでは16歳から車の免許が取れるので、後期中等段階の生徒の中には免許を有する者もいる。

 

成人生徒が在籍したり、遠隔地など車を使わなければ通学ができない場所もあったりするので、学校によっては車通学を認めることがある。可否の判断は学校長に委ねられている。若者の事故が多いことは確かだが、一概に禁止するのではなく、安全管理を徹底した上で、保護者の責任のもとで許可するというオーストラリアのやり方は、ある意味で合理的かもしれない。

ヘリコプターで登校!

北部準州で農場を営む家族の話だ。

 

農場は学校がある最寄りの町から100キロ以上離れている。近くに住む人はいない。農場の広さは何ヘクタールもあり、敷地内を移動するにも車で数時間かかるという。夫婦には小学生の子どもが2人いる。町の小学校に通っているが、自宅からは車で1時間以上かかる。

 

普段は夫婦が車で送り迎えしているが、ある日、大雨で道路が冠水し、通行止めになってしまった。子どもたちは学校に行きたがった。そこで、父親はヘリコプターで子どもたちを学校に送り届けたという。これも珍しいことではないらしい。ヘリコプターは農場の仕事に使うもので、遠隔地の農場ではよく使われている。

 

オーストラリアの遠隔地ならではのエピソードだ。

 

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教育学博士
本柳 とみ子


公立中学校で26年間教鞭をとったあと、大学院で海外の教育について研究を始める。その後、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら研究を続ける。2012年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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