(※写真はイメージです/PIXTA)

英国国立ウェールズ大学経営大学院にて「医療経営学修士号」を取得した臨床医である角田圭雄氏の著書『MBA的医療経営』より一部を抜粋・再編集し、医療経営についての見解を紹介します。

専門性の高い分野に訪れた「IT化」の厳しい波

第二に、限られたリソース(資源)で一定の成果を生むことが求められる時代になったことが挙げられます。人口の高齢化や医療の高度化は医療費高騰を招き、地方での医師・看護師の不足など、一定の資源の中で大きな成果を生むことが求められる時代になっています。

 

多くの急性期病院でDPC/PDPSを取り入れ、さらに医療政策としては地域医療構想が実施されます。少子高齢化の後には、多死時代と人口減少が現実のものとなり、今後医療市場の縮小も予想されます。

 

限られたリソースで一定の成果を生むという発想は企業では当然のように行われてきたわけですが、病院の運営では十分に議論されてこなかったという側面があります。

 

第三に、インターネットの普及などによって医療知識における情報の非対称性が解消されつつあることが挙げられます。情報の非対称性とは、「売り手」と「買い手」の間において、「売り手」のみが専門知識と情報を有し、「買い手」はそれを知らないというように、「売り手」「買い手」の双方で情報と知識に差があることを指します。

 

1972年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のケネス・アロー(1921-2017)が指摘していますが、医療においては、「売り手」である医療者と「買い手」である患者とでは、医療に関する専門的な知識に関する情報量が大きく異なり、これまで医療者側に圧倒的に情報が多かったわけですが、インターネットの普及で疾患や治療に関する情報は誰でも入手できるようになったため、情報の非対称性が解消されつつあります。

 

病気に関する知識が増えただけでなく、病院や医師個人の情報もホームページで丸裸です。医師の出身大学、卒業年度、経歴、博士号や専門医の有無まで明らかになり、病院や医師を容易に選択できる時代になっています。

 

第四に、診療ガイドラインなどの普及によって、医療のコモディティ化(汎用品化)が急速に進展したことが挙げられます。コモディティ化とは、特定のジャンルにおいて、どの商品の品質も同じように高まると、顧客にとって代わり映えしなくなってしまう状態を指します。

 

日常的な例としては牛丼がいい例です。各社の競争が激化し、一時は牛丼1杯が280円という状態でした。どこの牛丼屋で食べても大して味は変わりませんので(コモディティ化)、低価格競争に陥り、業界全体が疲弊します。

 

私は非アルコール性脂肪性肝疾患(non alcoholic fatty liver disease:NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(non alcoholic steato hepatitis:NASH)を専門としており、日本消化器病学会や日本肝臓学会において『NAFLD/NASH 診療ガイドライン2014』、『NASH・NAFLDの診療ガイド2015』などのガイドライン作成委員会の委員を務めていますので、診療ガイドラインの作成を否定する立場にありません。

 

全国どこでも、誰もが同等の医療レベルを享受できるといった公平性の観点からは望ましいことですが、医療がコモディティ化されることで、医療機関間の差別化が困難になるというジレンマが存在します。ガイドライン通りの標準医療であれば、地域の診療所でも大学病院でも、専門医でも非専門医でも医療の内容に差異がなくなります。

 

これまで大学病院と言えば一般の病院ではできないような高度な医療機器や専門的医療を提供することで、他の一般病院との差別化を行ってきたわけですが、医療のコモディティ化によって差別化が困難になってきたわけです。

 

専門医であるがゆえに学会で作成されたガイドラインから外れた治療は行いがたくなり、高度医療施設において一層のコモディティ化が進みます。

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    ※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『MBA的医療経営』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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