古いアパートの住人と家主の間には、家賃滞納、立ち退き交渉といったトラブルが残念ながらつきものです。ここでは、「お金があるのに家賃を払わない」高齢者について、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
ビジネス街に佇む「廃校になった小学校」のような家
「今にも崩れ落ちそうだから、建物を取り壊したいのよ」
相談に来られた家主は、大阪の中心地にある築60年以上経つ建物を、相続で引き継いだ所有者でした。
大阪のど真ん中を走る6車線もある大きな道路は、両側にオフィスビルが並びます。そこから50メートルほど中に入ったところに、ひっそりとたたずむ大昔の下宿スタイルの建物が、問題の物件でした。
靴は玄関で脱ぎ、靴棚に置きます。入ってすぐ廊下の右側に広い食堂があって、ここで昔はご飯まで提供されていたのでしょうか。夢を語りながら、食後には麻雀をしたのでしょう。埃を被って画が見えなくなった麻雀のパイが転がっています。
細い薄暗い廊下を進むと、食堂奥側に共同の洗面所とトイレ。風呂場はありません。そもそもこんな大阪のオフィス街のど真ん中に、まだ銭湯というものが存在しているのでしょうか。洗面所は学校の手洗い場のように鏡が蛇口の上に貼られていますが、曇りすぎて鏡の役目は果たしていません。廃校になった小学校のイメージです。
洗面所を通り過ぎてやっと廊下を挟むように、4畳もないほどの小さな部屋が6つ並びます。各部屋のドアも引き戸になっていて、狭い廊下がドアで塞がれないようになっていました。
足早に行き交うビジネスマンが溢れる街中に、この建物だけが時間が止まったように昭和の名残を漂わせています。ここに、たった一人の高齢者が住んでいます。
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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