【関連記事】集団辞職で天国から地獄へ…従業員から突き付けられた社長失格
※※本記事の読み方※※
●まず「ケース」を読んでいただき、2~3分かけて「自分ならこうする」という自分なりの答えを導き出してください。
●その上で、「解説」を読み、自分の考えとどこが同じでどこが違っていたかを確認してください。
●著者の「解答」は解説の最後に挙げていますが、最初から見ないようにしてください。
クレーム対応に追われ、肝心の「問題解決」ができない
<Case:大クレーム発生! 混乱の嵐の中で、何をすればいいかもわからない…>
満を持してスタートした新しいオンラインサービスだが、顧客数が想定以上だったこともあり、システムが早々にパンク。さらに、システムそのものの使い勝手についてもクレームが殺到する事態になってしまった。
さらに悪いことに、このトラブルを聞きつけたメディアに大々的に報じられてしまった。
早急に問題解決を図らねばならないが、担当者はほぼ全員、クレーム対応に追われてまったく動けない状態だ…。
⇒Q. 新サービス責任者のあなたが、事態を収拾するため真っ先にすべきことは?
真っ先にすべきは「顧客への謝罪・情報開示」
この場合、真っ先にやるべきことは明らかです。速やかに会社として失敗を認め、顧客であるユーザーに謝罪し、現状を事実ベースで伝える。これしかありません。
事態の収拾にあたる際に優先順位として最上位に来るのは、「顧客にこれ以上の迷惑をかけないこと」であるはずです。対処が遅れれば、二次被害、三次被害が起こる危険性もあります。それを回避するには、顧客に対して正確な情報開示を行うことが必須です。
よって、まずは記者会見やプレスリリースで「今回のトラブルにより、皆様にご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」と会社として明確な謝罪の意を示し、システム障害の規模や範囲、使えなくなっている機能などについて、現在わかっている情報をすべて公開する。これをできるだけ早くやるべきです。
もちろん同時に解決策も考えなくてはいけませんが、リカバリープランを作るには一定の時間がかかります。それを待っていたら情報公開が遅れる一方なので、とにかく起こってしまった事象について顧客への説明を迅速に行うことが重要なのです。
リカバリープランについては、「現在善後策を検討しておりますので、対応が決まり次第、速やかに皆様にご報告します」とひとまず伝えておけば問題ないでしょう。
ごまかし、言い訳、情報隠しは「大炎上」の元
ところが実際は、会社やプロジェクト責任者が情報を隠したり、ごまかそうとしたりするケースが後を絶ちません。「失敗を認めたら、会社の名前に傷がつく」「自分の社内での立場が危うくなる」といった邪念が入るからです。
また、会社や責任者が自己保身に走ると、謝罪するにしても言い訳がましい表現になってしまいがちです。
「会社としては想定内のアクセス数でしたが、現場のエンジニアがサーバーリスクを過小評価しておりました」
このように「自分たちは悪くない」と匂わせるようなロジックを組み立てるのですが、このような自己保身の姿勢はすぐに顧客に見抜かれます。かえって火に油を注ぐことになるだけでしょう。
会社を守りたいなら「失敗を認めて、潔く謝る」一択
また、企業が不祥事を起こした際によく見られるのが、会社にとってできるだけダメージの少ない情報だけを小出しにしようとするケースです。
「10個の不都合な情報のうち、8個だけ公表し、残りの2個は隠し通そう」といった計算を働かせるのですが、そんな策略がうまくいくことはほとんどありません。結局は顧客やメディアの追及によって隠蔽(いんぺい)や嘘が明るみに出て、会社の信用は地に堕ちることとなります。
情報網が発達した今は、一般の人でもあらゆる情報にアクセスし、事実を検証できます。スマホがあれば録音や録画も簡単なので、誰がどこで証拠を押さえているかわかりませんし、その気になればインターネット上で匿名の内部告発もできます。都合の悪いことを隠そうとしても、いずれはバレるのです。
むしろ会社を守りたいなら、一刻も早く自分たちの非を認めて、「申し訳ありませんでした」と潔く頭を下げるべきです。
会社に「もし勝手に情報開示すれば…」と脅されたら?
このケースのように自分がサービスの責任者だった場合、個人としては早く顧客に謝罪したくても、上から圧力がかかることもあるでしょう。経営陣が「会社として全面的に非を認めるのはまずい」「情報公開はもう少し待て」などと言い出すようなケースです。
その時に立ち返ってほしい問いは、「自分は誰のために仕事をしているのか」です。誰に対して付加価値を提供し、誰からお金をもらって、誰に対して影響を与えているのか。
その答えは「顧客」です。会社のためでも、上司のためでも、自分の出世のためでもなく、皆さんは「顧客のため」に仕事をしているはずです。
であれば、自分が第一に忠誠を尽くすべき相手は顧客であり、顧客にこれ以上の迷惑をかけないことを何より優先すべきでしょう。
たとえ上から「勝手に情報を開示したら責任問題になるぞ」と言われても、会社や上司ではなく、顧客への忠実義務を選択できるか。
これはまさに「踏み絵」であり、自分の信念に従って戦えるかどうかが問われます。
問題解決を進める前に…チーム内をまとめる「ひと言」
このケースのように自分がプロジェクトの責任者なら、チームメンバーへのフォローもしなくてはなりません。
現場の担当者たちは、混乱の中でパニック状態に陥っているはずです。このような状態のまま物事を進めようとしても、かえって混乱に拍車がかかってしまいます。
ここでもまずやるべきは、リーダーとしてチームの失敗を認めることです。「我々はサービスのリリースに向けて頑張ってきたが、結果的に失敗した。この事実を素直に認めて、これからお客様のために何をすべきか全員で考えよう」などと呼びかけ、問題解決に向けて建設的な議論を促すことが責任者としての務めです。
逆にやってはいけないのが、犯人探しをすることです。「誰が原因を招いたんだ?」「君の作業に確認不足があったんじゃないか?」などと個人を追及しても、起こってしまったトラブルは取り消せません。
むしろメンバーには「失敗したのは、リーダーが力不足だったからだと批判されても仕方ない。自分のことはいくら責めてもいいから、今はとにかくチームとしてこの危機を切り抜けるために協力してくれ」と自ら泥をかぶってでも、事態の収拾に向けてチームをまとめることが求められます。
リーダーが自分の非を認めることは、決して「負け」ではありません。むしろ嘘偽りのない正直な態度を見せることで、かえって周囲からの信頼は高まるものです。
特にこのケースのような非常時は、結果的に「負けるが勝ち」なのです。
木村 尚敬
株式会社 経営共創基盤(IGPI)
共同経営者(パートナー) マネージングディレクター