40代会社員、独立する恩人上司からの「引き抜き」に応じるべきか?【修羅場のケーススタディ】

40代会社員、独立する恩人上司からの「引き抜き」に応じるべきか?【修羅場のケーススタディ】
※写真はイメージです/PIXTA

終身雇用が大前提だった時代が終わってしまった今、ビジネスパーソンにはキャリアを自ら開拓していくことが求められます。とりわけ将来の経営を担わなくてはいけない中間管理職の人々にとっては、人生を左右するキャリアの一大転機が訪れることもあるでしょう。例えばお世話になった上司から「新しい会社を立ち上げるから、一緒に来てほしい」と言われたら、どうしますか。※本連載は、木村尚敬氏の著書『修羅場のケーススタディ』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

※※本記事の読み方※※

●まず「ケース」を読んでいただき、2~3分かけて「自分ならこうする」という自分なりの答えを導き出してください。

 

●その上で、「解説」を読み、自分の考えとどこが同じでどこが違っていたかを確認してください。

 

●著者の「解答」は解説の最後に挙げていますが、最初から見ないようにしてください。

 

●著者の解答はあくまで、「解答の一例」であり、合っていた・違っていたを問うものではありません。自分の答えと違っていたら、「なぜ、違っていたのか」を改めて考えてみてください。

「君も新会社に来てほしい」と恩人上司から誘われ…

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<Case:「恩人」の上司が退社して独立。私もついてくるよう誘われているが、迷う>

入社以来世話になっており、目をかけてくれているA本部長。だが、トップとの対立から会社を去り、別会社を立ち上げることになった。そんなA本部長から、「君も新会社に来てほしい」と誘われた。新たな挑戦には非常に魅力を感じるし、評価してくれたことも嬉しい。

 

ただ、今の仕事が不満というわけでもなく、課長としての責任もある。年齢もすでに40過ぎで、家族のこともあってあまり無茶もできない。しかし、恩人の誘いも無下にはできず…。

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⇒Q. 40代でのチャレンジは可能? どのように自分の道を選べばいいのか?

 

「A本部長への恩義」は判断材料にならない

つい間違いがちではあるのですが、このケースで自分に問うべきは、「A本部長と自分との関係」ではありません。問うべきはあくまで、「A本部長の立ち上げる事業」についてです。その事業が客観的に見て筋が良く、十分な成功が見込めるものなのか、経済合理性に適う十分なリターンが得られるかどうかで決めるべきであり、「A本部長にどれだけお世話になったか」は、この際、除外して考えなくてはなりません。

 

設立したばかりの会社に創業メンバーとして参画することは、自分の人生を投資するようなものです。投資に見合うリターンが得られるかどうかを冷静に判断しなければ、きっと後悔することになります。どれだけ世話になったかという「情理」ではなく、あくまで「合理」で判断すべき事柄なのです。

 

ただしこの場合の「リターン」とは、お金だけを指すのではありません。新しい事業にチャレンジすることで得られる可能性があるものは、他にもいろいろと考えられます。

 

事業成長への意欲が高い人なら、一から興したビジネスを拡大させていく手応えや達成感がリターンになります。あるいは「世の中を良くしたい」という使命感が強い人なら、新しい事業を社会貢献性の高いものに育てていくやりがいこそがリターンになるでしょう。

 

「事業として成立するかどうか」はもちろんのこと、自分が残りの人生を投資するに値する事業なのかを、大事にしている価値観や志向性と照らし合わせてみる。それが「筋が良い事業か、悪い事業か」を判断する軸になります。

 

もちろんお金へのこだわりが強い人なら、「新事業で大儲けできるかどうか」で判断すればいいでしょう。それも一つの判断軸であり、別に悪いことではありません。

挑戦するなら「失敗したらどうなるか?」まで検討

自分の判断軸に照らして考えたところ、十分に筋が良い事業だと思えるし、チャレンジもしてみたい。本人がそう判断したのなら、このケースで残る課題は家族の理解を得ることです。

 

ここでお勧めしたいのが、「ワーストシナリオ」を作成してみることです。

 

どんな事業も、最初から順調にいくとは限りません。むしろ、確率的に言えば、新事業は失敗に終わることのほうが多いとすら言えます。だからこそ、もし失敗に終わったらどうなるのかをあらかじめシミュレーションしておく必要があるのです。

 

例えば、事業が軌道に乗るまで最低3年はかかるとして、その間は給料がゼロになる可能性もあると考えます。そう考えた時、チャレンジのためには最低3年間、家族が食べていくだけの貯蓄があることが不可欠となります。

 

さらに、もし3年経っても事業が軌道に乗らなければ、再び会社勤めに戻るとします。しかし、以前と同じ給与水準を得られるとは限りません。そこで、仮に今の7割の給与で生活を回していけるかを考えてみます。

失敗しても「どうにかなる」とわかれば家族も納得

これらのシミュレーションをした上で、「なんとかなる」というメドが立つなら、あとはパートナーに対して、このシナリオを元に説明をすればいいでしょう。

 

「自分にはどうしてもやってみたいことがある。最悪の場合、3年間は無収入になるが、貯蓄でやっていける。もし3年経ってもダメなら会社員に戻るが、給与が今の7割に下がっても生活はできるから問題ない」

 

このように、事実を粛々と伝えるのです。

 

こうした説明なくして、いきなり「今の仕事を捨ててベンチャーに飛び込む」と言い出したところで、反対されるのがオチでしょう。しかし、このように最悪のシミュレーションをしてみることで、不安はある程度解消されるはずです。

 

人間は自分がわからないことに対して不安や恐怖を抱きます。たとえ最悪のシナリオであっても、先の道筋が見えることで、家族の不安はいくぶん和らぐものです。

 

なお、このケースでは、40代という年齢を気にしていますが、新しくチャレンジするのに遅すぎることはありません。むしろ年齢が上がって50代に近づけば、子どもが独立して家計の固定費が下がる家庭も多いので、セカンドキャリアとして独立や転職を考えるなら、かえって良いタイミングとも言えます。

 

仕事人生の残り時間が少なくなりつつあることを実感する世代だからこそ、自分の判断軸に照らして、本当に自分がやってみたいことに挑戦する。それも一つの選択ではないでしょうか。

 

【A. 恩人への義理はいったん忘れ、あくまで「事業そのもの」を軸に見極める。】

 

 

木村 尚敬

株式会社 経営共創基盤(IGPI)

共同経営者(パートナー) マネージングディレクター 

 

 

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修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問

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木村 尚敬

PHP研究所

本当にヤバい時、あなたならどうする? ベストセラー『ダークサイド・スキル』(日本経済新聞出版)の著者が送る、ユニークな「紙上ケーススタディ」が誕生。 「上司から、とうてい達成できないような目標を強要された」…

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