●国内で緊急事態宣言延長なら感染者数減となるかが焦点、総裁選はその後の経済対策に注目。
●米雇用回復と物価安定なら株価に追い風、ただ強すぎる経済指標は利上げ懸念で波乱要因に。
●中国景気も重要だが低迷リスクは小、日経平均は9月材料の無難な消化なら上昇基調回復へ。
国内で緊急事態宣言延長なら感染者数減となるかが焦点、総裁選はその後の経済対策に注目
日経平均株価は2020年9月から2021年7月まで、11ヵ月連続で月末の最終営業日に下落していました。しかしながら、8月31日は前日から300円超上昇し、今回は「月末安」のアノマリー(経験則)が通じませんでした。そのため、相場の地合いが好転したとの声も一部に聞かれます。そこで、今回のレポートでは、9月の材料を整理し(図表)、日経平均株価の方向性について考えます。
まず、国内では、引き続きコロナの感染動向に注意が必要です。緊急事態宣言は、9月12日の期限が延長される可能性が高まっていますが、延長された場合、新規感染者数が減少に向かうか否かがポイントです。また、9月29日投開票の自民党総裁選も注目材料ですが、誰が総裁となっても与党の政策方針は変わらないと思われるため、市場の関心は、総裁選後に公表が予想される経済対策にあるとみています。
米雇用回復と物価安定なら株価に追い風、ただ強すぎる経済指標は利上げ懸念で波乱要因に
次に、海外では、米国の経済および金融政策の行方が重要と考えます。米国ではコロナの感染再拡大を受け、9月からワクチンの3回目の追加接種(ブースター接種)が始まります。弊社は米国経済について、景気が大きく下振れることはなく、復職の動きが続くことで雇用が一段と回復し、供給制約による物価の一時的な高い伸びは解消に向かうとみています。米国経済がこのシナリオに沿った動きとなれば、日本株には追い風です。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、量的緩和の縮小(テーパリング)について、コロナの感染状況や、雇用と物価動向を慎重に見極めた後、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、12月からの開始を決定すると予想します。ただ、年内開始はほぼ織り込み済みで、市場の関心は利上げ時期にあるとみられます。そのため、米国でこの先、強い経済指標の発表が続いた場合、早期利上げ懸念から長期金利上昇と株安という展開も想定されます。
中国景気も重要だが低迷リスクは小、日経平均は9月材料の無難な消化なら上昇基調回復へ
このほか、中国経済も注視しておく必要がありますが、中国政府は2021年後半から2022年にかけて、景気支援型の政策スタンスに移行すると思われます。今後発表される経済指標を確認する必要があるものの、景気が低迷する恐れは小さいとみています。また、地政学リスクも警戒すべき要素です。アフガニスタンでのタリバン復権後、テロの脅威が高まっており、他国や他地域に影響が広がれば、株式市場の悪材料となります。
なお、日経平均株価は2月以降、月間の取引時間中高値を毎月切り下げており、8月の高値は12日につけた28,279円80銭でした。しかしながら、本日の日経平均株価は比較的しっかりと上昇し、前場にこの水準を上抜けました。これも相場の地合いが好転したサインと解釈することができますが、日経平均株価が明確に上昇基調を回復するには、ここまでみてきた9月の材料を、いずれも無難に消化していく必要があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『9月の日本株を見通す上での材料整理』を参照)。
(2021年9月1日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト