●パウエル議長は、物価が「さらなる大きな前進」の要件を満たし、雇用も明らかに進展したと述べた。
●また、7月FOMCでは経済が予想通り進展なら年内テーパリング開始が適切との意見だったと表明。
●市場はテーパリングに関する発言よりも、利上げはまだ先と確認できたことから、落ち着いた反応に。
パウエル議長は、物価が「さらなる大きな前進」の要件を満たし、雇用も明らかに進展したと述べた
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月27日、カンザスシティー連銀がオンライン形式で開催した経済シンポジウム、ジャクソンホール会議に参加し、講演を行いました。今回は、パウエル議長が量的緩和の縮小(テーパリング)に関する具体的な手掛かりを示すか否かに市場の注目が集まっていました。そこで以下、パウエル議長の発言ポイントをまとめ、それを受けた市場の反応について解説します。
FRBは、現行の国債などの買い入れペースについて、「最大雇用と物価安定の目標に向けてさらなる大きな前進(substantial further progress)を遂げるまで」継続するという、先行き指針(フォワードガイダンス)を設定しています。パウエル議長は今回、物価について「さらなる大きな前進」という要件を満たし、雇用についても明らかな進展があったと明言しました(図表1)。
また、7月FOMCでは経済が予想通り進展なら年内テーパリング開始が適切との意見だったと表明
パウエル議長の雇用と物価に関する見解は、フォワードガイダンスに照らし合わせると、テーパリング開始に向けて、条件が整いつつあるというメッセージと解釈できます。FRBは現在、国債の保有を少なくとも月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)の保有を少なくとも月400億ドル、それぞれ増やし続けていますが、テーパリングが開始されれば、増加ペースは逓減することになります。
さらにパウエル議長は、「7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、ほとんどの参加者と同様、経済がおおむね予想通り進展した場合、年内に資産購入ペースの減速を開始するのが適切となり得る、というのが私の見解だった」と述べました。したがって、米国経済がこの先、最大雇用と物価安定の目標に向けて前進していけば、年内にテーパリング開始の流れになると考えられます。
市場はテーパリングに関する発言よりも、利上げはまだ先と確認できたことから、落ち着いた反応に
8月27日の米国市場では、ダウ工業株30種平均など主要株価指数は上昇した一方、米10年国債利回りは低下し、米ドルは対主要通貨でほぼ全面安となりました。パウエル議長の発言により、年内のテーパリング開始の確率はかなり高まったと考えられますが、すでに複数のFOMCメンバーの発言や、7月のFOMC議事要旨から、年内開始はほぼ織り込み済みと推測されます。
8月27日付レポート『米利上げの織り込みと米長期金利の関係』でお伝えした通り、市場の関心は、すでに利上げ開始時期へ移行したとみられます。8月27日の米国市場の落ち着いた反応は、パウエル発言(図表1)で、利上げはまだ先と確認されたことによるものと思われます。実際、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む2022年通年の利上げ回数はこの日低下し、それに伴い米10年国債利回りも低下しています(図表2)。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ジャクソンホール会議でのパウエル発言と市場の受け止め』を参照)。
(2021年8月30日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト