民法上、養子の数に制限はないが・・・
前回、血のつながりの濃い順番で、相続権の順位が決められていると言いました。その唯一の例外が、すでに述べたように養子縁組をしたときです。ただし、人数制限があり、実子がいる場合は1人だけ、実子がいない場合でも2人までと定められています。もっとも、民法上では、養子の数に制限はありません。
相続税を計算する場合に限ってこうした制度があるのは、養子縁組をして相続人が増えると、次のような規約により、相続税の累進税率が下がるというメリットがあるからです。
<ここがポイント>
血のつながりはないけれど、財産を譲りたい相手がいる場合には、養子縁組をしておくと、養子は実子と同じ相続権を持つことができます。
◆相続税の基礎控除額が増える
一人当たり基礎控除額が600万円増えます。
◆生命保険金や退職手当金の非課税額が増える
非課税額は、生命保険金や退職手当金それぞれ、500万円です。
これらの制度により、節税目的で養子縁組をしようという人が増えたために、養子の数に制限が設けられたのです。養子には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の二種類あります。
◆普通養子縁組
実の親との関係を維持したまま、新たな親との親子関係を結ぶことです。親子関係が二重になることもあります。
たとえば、祖父と養子縁組をしていて、実の親が死亡してから祖父が死亡したときです。孫は、祖父の子どもとしての相続権と実の親の代襲相続権と二つの相続権を持つことになるのです。この場合、上の世代の親戚や年上の人は養子にはなれません。
<ここがポイント>
相続権を持つ養子には人数制限があり、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までです。
◆特別養子縁組
実の親との縁を切り、新たな親と養子縁組をすることです。この場合、養親は25歳以上の夫婦で夫婦ともに養親になること、養子の年齢は6歳以下であること、実の親が承諾し、裁判での審判を受けていることという条件があります。
「戸籍上の関係」は血筋よりものを言うがマイナス面も
こうして、養子は実子並の権利を与えられることになります。その権利は、嫁を養子にしたら息子が死亡し嫁が家を出たとか、連れ子を養子にしたのち離婚することになったなどという新事態が生じても、解消の手続きをしない限り変わりません。
養子は実子扱いされることから、よく尽くしてくれる再婚相手に連れ子がいた場合や、有能な部下のおかげで資産家になれた場合などに、感謝の気持ちを表す最適な方法は、養子として戸籍に入れることです。血筋よりもものを言うのは、戸籍上の関係だからです。
一方、戸籍上の関係の強さが、被相続人にとって、マイナスに働くこともあります。勘当したいほど意に染まない子どもや別居中や離婚争いをしている配偶者がいる場合です。
勘当したと宣言し、遺言書に1銭もやらないと書いておいても、子どもには遺留分を受け取る権利があります。
また、別居状態がどんなに長くても、慰謝料でもめていて、離婚争いの裁判が長引いていても、離婚が成立し、戸籍から除かれないかぎり、配偶者の相続権はなくなりません。それは、たとえば、配偶者が不倫をして家を出ていて、不倫相手と同居していたとしても変わらないのです。
<ここがポイント>
戸籍上の立場は何よりも強いのです。たとえ、不倫のあげく家出をして、その相手と同棲していたとしても、離婚が成立していないかぎり、配偶者には相続権があります。