「娘の夫名義」の財産は相続できない
親が、結婚した娘のためにマンションを購入してやりたいと思いました。子ども(直系卑属)の住宅取得金には、一定の金額まで贈与税がかからないという制度を利用した親は、その限度額を超えた1500万円を娘婿の名義にすることにしました。
ところが、結婚して3年後、娘婿が急病で死亡してしまいました。娘は夫名義の1500万円、その3分の2の相続権を持ちました。
このとき、娘が子どもを生んでいれば、子どもは第一順位の相続人ですから、娘と孫とで2分の1ずつ、マンションの相続権すべてを持つことになり、親は、何も案じることはありませんでした。
<ここがポイント>
相続権には、血族であることが何よりも優先されることに十分留意しておく必要があります。不本意な相続権が発生することがあるからです。
しかし、残念なことに子どもがいなかったために、残り3分の1の相続権は、死亡した娘婿の親が、第二順位の相続人として取得することになってしまいました。つまり、自分が出したお金で購入したマンションなのに、娘婿の名義分の相続権は、自分ではなく、1銭も出さなかった娘婿の親が持つことになったのです。
妻の親にすれば、婿死亡により縁が切れるかもしれない人間が、500万円の相続権を持つことになったわけです。もちろん、息子を失った親の悲しみは、500万円で癒えるものではありません。
しかし、妻の親は、さぞ後悔したことでしょう。娘の名義にしておけば、相続問題は起きることがなく、娘はマンションという資産のすべてを持ったままでいることができたからです。
<ここがポイント>
物事は順番どおりにはいかないものです。この項の例でいえば、娘婿が親よりも早く死亡するなど考えてもいなかったことでしょう。
とはいえ、娘婿の親であれば、まだ納得できたかもしれません。しかし、娘婿の親が、すでに死亡していた場合はどうなるのでしょうか。
妻の相続権は、4分の3の1125万円、375万円は、死亡した娘婿のきょうだいが受け取ることになります。きょうだいは、第三相続人になるからです。妻の親は、ますます縁の遠い人間が相続権を持つことを理不尽に思ったことでしょう。
法律が抱える大きな矛盾・・・状況に応じた対策を
法律には、このような矛盾が生じる規定があることに留意しておく必要がありそうです。たとえば、息子の妻が長年にわたり義父母の介護をしても、その妻には相続権がないという話も、矛盾に満ちた規定です。
親が介護を必要とするようになってから、実家に寄り付きもしなかったきょうだいには相続権があります。もし、介護の真っ最中に、夫が死亡してしまったら、さらに事態は深刻です。
これまでのいきさつもあり、情もわいたであろう妻は、介護を続けたあげく、義父母の死後、義父母名義の家から出なければならなくなるかもしれません。
義父母が、介護をしてくれている息子の妻に、感謝の意を表すためには、生前に彼女と養子縁組をしておくことです。そうしておけば、妻は、実子と同じだけの相続権を持つことになるからです。
<ここがポイント>
血のつながりのない人に財産を遺したいとき、何よりも有効なのは、養子縁組をしておくことです。養子には実子と同じだけの権利が与えられるのです。
夫が健在であれば、夫の相続分に自分の分がプラスされ、死亡していても子どもがいれば、子どもは夫の代襲相続人としての権利を持つことができるでしょう。