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ジャクソンホール会議:パウエル議長、テーパリングの年内開始を市場に浸透させる
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2021年8月27日に、カンザスシティー連銀がオンライン方式で開催した経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」の冒頭で講演しました。パウエル議長は米国債などの資産を購入する量的緩和の縮小(テーパリング)開始について、「7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、自分としては年内の開始が適当だろう」との考えであったことを表明しました。
パウエル議長はテーパリング開始に向け、インフレ率と最大雇用の評価(さらなる著しい進展)にも言及しました。
どこに注目すべきか:ジャクソンホール会議、テーパリング、利上げ
ジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演は概ね7月のFOMCの議事要旨に沿った内容でした。主なポイントは①テーパリングは年内開始が適切との判断を示したこと、②インフレ率と雇用市場の評価、③テーパリングと利上げを切り離して考える、でした。全体的なトーンはハト派(金融緩和を選好)的で、米国債利回りは低下しました。
テーパリングの開始時期について、7月のFOMC議事要旨で多くの参加者は経済が想定通り回復するならば、年内の開始が適切と考えていることが示されています。重要なのは、今回の講演でパウエル議長も多くの参加者同様に、想定通りに経済が回復するならば、テーパリングの年内開始を支持する考えであったことを表明したことです。
次に、パウエル議長は②のインフレ率と雇用市場の評価について説明しました。雇用市場に対して、パウエル議長はここ数ヵ月で雇用市場の見通しがかなり明るくなったと述べるなど、雇用の最大化に向けさらなる著しい進展があったと評価しています(図表1参照)。一方、インフレ率についてもさらなる著しい進展の条件を満たしたと述べています。
雇用についてパウエル議長は著しい進展を認識する一方で、まだ改善の余地が残されている点も指摘しています。例えば、講演で使用した図表1の失業率では、雇用市場の改善のみでなく、雇用市場から離脱した人がいることで失業率が低下した面に注意を呼びかけています。
インフレ率についてはインフレ目標の2%を既に大幅に超え、形式的に条件を満たす中、パウエル議長はインフレ率の上昇が一過性であるとの見解を維持しました。その理由として、足元のインフレ率を急上昇させた耐久消費財のうち、中古車などは既に価格が鈍化していることや、賃金上昇によるインフレ加速の証拠が不十分なこと、期待インフレ率が概ね安定している点などを指摘しています。また、過去(1950年代)の金融政策を引き合いに、一時的なインフレ懸念に対して過度に金融を引き締めたことを教訓と説明しています。
①で年内のテーパリングを支持しながらも、②の雇用市場やインフレ率への見解に加え、③のテーパリングと利上げを切り離した点で、パウエル議長は今回の講演でハト派的な演出をしたと見ています。早くから年内テーパリングを支持してきた連銀総裁などのFOMC参加者は、住宅市場などに過熱感が見られる中での住宅ローン担保証券(MBS)購入に疑問を呈しています。パウエル議長が年内テーパリング開始を適切としたのも、テーパリング開始の論拠に同調したと見られます。
しかしながら、テーパリング容認を早期利上げと結び付たがる市場のクセ(?)に、パウエル議長は細心の注意を払ったと思われます。今回の講演でテーパリングと利上げの切り離しを無難に終えたことで市場に安堵が見られます。
もっとも、テーパリング終了の時期や、新型コロナウイルスが悪化した場合のテーパリングの進め方など、パウエル議長には、まだまだ宿題が残されているようです。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ジャクソンホールのパウエル議長、何が良かったのか』を参照)。
(2021年8月30日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
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