最高裁判所の判決は「連邦議会」と同一見解
上記の法改正がなされたあと、2021年8月4日に、最高裁判所は臨時従業員の該当性に関する判決を出し、7名の裁判官の全員一致で上記の下級審の判決を覆して、「臨時従業員か否かについては、雇用の実態ではなく、雇用のオファーを受けた時点において雇用者・労働者間に継続的な業務に関する確定的な事前の約束があったか否かで判断する」との見解を示しました(WorkPac Pty Ltd v Rossato [2021] HCA 23※3)。
最高裁判所は、Casual Employeeか否かは「雇用のオファーを受けた時点において雇用者との間に継続的雇用に関する確定的な事前の約束があったか否か」によって決まり、「雇用開始後の勤務の実態(規則的なパターンで長期にわたって勤務したか否か)」によって影響を受けないとの見解を示しました。これは上記の今年3月の連邦議会による法改正で規定された臨時従業員の定義と同じ内容であり、最高裁判所が連邦議会と同一の見解を取ったといえます。
上記の最高裁判所の見解に従えば、今年3月の法改正が適用される前に臨時従業員が規則的なシフトで長年に渡り同一の雇用者の下で勤務していたという勤務の実態があったとしても、そのような臨時従業員は正社員と判断されないことになります。この最高裁判所の判決によって、雇用者は過去に遡って臨時従業員に対して冒頭で触れたような多額の年次有給休暇等の補償をしなくて済むことになり、経済の混乱は避けることができました。
臨時従業員→正社員になる流れ…日本の条件との比較
オーストラリアの非正規雇用の形態である「請負事業者」と「臨時従業員」のうち臨時従業員については、上記のとおり「雇用の実態如何にかかわらず、臨時従業員として雇用されれば臨時従業員として扱われる。但し、規則的なパターンで継続的に勤務していれば正社員に変更できる権利を与えられる」という形で決着することになりました。
長年にわたり臨時従業員の制度と実態が乖離していると指摘されてきたところ、5年間ほど前から規則的な勤務をする臨時従業員を正社員とみなす裁判所の下級審の判決が出て大きな議論となり、今年3月に議会によってそれらの下級審の判決を覆す立法措置が行われ、今年8月に最高裁判所が立法措置を承認する内容の判決を行って幕引きとなったことになります。
他方で、日本では非正規雇用の労働者が同一企業との間で有期の労働契約を5年を超えて継続した場合には、労働者からの申し込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できるという法改正が2013年になされて、2018年4月から適用されています。オーストラリアの方が12カ月という短い期間であるものの、規則的なパターンで勤務していなければならないという要件が付されています。また、オーストラリアの臨時従業員は、25%のCasual Loadingを受領できるという点も日本と異なっています。
請負事業者の問題、日豪とも立法措置での解決に至らず
オーストラリアの非正規雇用のもうひとつの形態である「請負事業者」の保護についても、現在オーストラリアで多くの紛争が発生しており、激しく議論がなされています。
請負事業者はギグワーカーと呼ばれる料理宅配サービス「ウーバーイーツ」などで多く使用されている形態であるため、請負事業者の定義や待遇に関する判決や法改正は、これらのギグワーカーを使用する事業者にとって重大な影響を与えることになります。
オーストラリアにおいて、ギグワーカーの配達員や運転手が「請負事業者」又は「従業員」のいずれであるかが争われた最近の労働審判では「請負事業者」と判断した事例と「従業員」と判断した事例のいずれもがあります。この問題に関しては、オーストラリアでは、まだ立法措置による解決も行われておらず、最高裁判所の判決も出されていません。日本もオーストラリアと同じで、請負事業者に対する立法措置や最高裁判所の判決もありません。
オーストラリアや日本以外の世界各国においても、ギグワーカーが急増するなかで請負事業者の保護が問題となっており、イギリスやフランスではギグワーカーについて雇用関係を認めたり、年次有給休暇を認めるなどして請負事業者の保護を図る最高裁判所の判決が出ています。請負事業者の問題については、オーストラリアにおいても、他国の状況を見ながら、近いうちに立法措置や裁判判決が出されて決着がつくと思われます。
鈴木 正俊
グリーン・ビュー法律事務所
T&K法律事務所 外国駐在弁護士
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