オーストラリアにおいても、日本と同様「非正規雇用の問題」が存在し、法律による非正規雇用者保護の議論が活発です。2021年に入ってからは、それらの問題における法改正や判決等、注視すべき大きな動きもありました。本稿では、オーストラリアの非正規雇用の問題について日本と比較しながら取り上げます。日本と豪州の弁護士資格を保有し、豪州で10年の弁護士キャリアを持つ、鈴木正俊氏が解説します。

豪州で非正規雇用に該当=「請負事業者・臨時従業員」

オーストラリアの労働法上、労働者のタイプは大まかに以下の図表のように分類することができます。

 

そのうち、非正規雇用に該当するといえるのは、「請負事業者(Independent Contractor)」と「臨時従業員(Casual Employee)」です。

 

 

 請負事業者(Independent Contractor)

 

他者(委託者)から業務の委託を受けて、委託者に対して業務を提供する形態であり、日本でいうフリーランスの働き方になります。委託者との間には雇用関係は発生せず、労働法上の従業員(Employee)としての保護を受けません。例えば、年次有給休暇(Annual Leave)を取る権利や整理解雇手当(Redundancy Pay)を受ける権利はありません。また、委託者から継続的に業務の委託を受けることができる保証はありません。

 

 従業員(Employee)

 

●正社員

 

雇用者との雇用関係があり、雇用者の指示に従って雇用者に対して業務を提供するものであり、労働法上の従業員としての保護を受けることができます。この「従業員」のうち、業務や勤務時間が保証されており、一時的ではなく継続的に(雇用期間の限定なしに)勤務することが想定されている従業員は「正社員(Permanent Employee)」と呼ばれます。

 

●臨時従業員

 

他方、「従業員」ではあるものの、臨時に雇用されたものであり、雇用期間や業務や勤務時間が保証されていない従業員を「臨時従業員」といいます。臨時従業員の給料は、働いた時間や日数に応じて時給・日給計算で支払われます。臨時従業員は、安定した業務や給料が保証されておらず、雇用者が原則としていつでも雇用を終了させることができるため、雇用が不安定であるといえます。

 

ただ、不利益の代償として、オーストラリアの労働法上、一般的に臨時従業員は「正社員(Permanent Employee)」の給料の25%増の給料を受けることができることになっています(この給料の割増分はCasual Loadingと呼ばれています)。オーストラリアでは、臨時従業員の時給は、同一業務を行う正社員の時給よりも25%も高くなっているため、非正規雇用の従業員が正規雇用の従業員と比べて低いことが問題となっている日本とは異なっています。

 

オーストラリアの統計局(Australian Bureau of Statistics)のデータ※1によると、2020年8月時点において、オーストラリアでは、1258万人の就業者のうち、230万人(就業者の18%)が臨時従業員であり、100万人(就業者の8.2%)が請負事業者となっています(臨時従業員と請負事業者の合計で就業者の26.2%となっています)。他方で、日本の統計局のデータ※2によると、日本では、2021年4月~6月期において、5615万人の就業者のうち、非正規の従業員が2058万人(36.7%)となっています。

 

※1 Australian Bureau of Statistics Working arrangements, August 2020  https://www.abs.gov.au/statistics/labour/earnings-and-work-hours/working-arrangements/latest-release#data-downloads

 

※2 総務省統計局:労働力調査(詳細集計) 2021年(令和3年)4~6月期平均結果 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/4hanki/dt/index.html

 

オーストラリアでも日本と同じく、雇用調整(解雇)が容易な形態として非正規雇用(請負事業者と臨時従業員)が使用されています。これらの形態の労働者は、委託者・雇用者側の都合でいつでも職が失われてしまい、保護が不十分であるといわれています。

 

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