オーストラリアにも存在する非正規雇用の問題。かねてより、臨時職員の制度を雇用調整弁とするような、本来の目的と異なる運用がしばしば議論の的になっていました。下級審は制度に実態を合わせるよう求めた判決を下し、企業側は動揺。対応には多額の積み立て金が必要になるともいわれましたが、その後の展開は――。日本と豪州の弁護士資格を保有し、豪州で10年の弁護士キャリアを持つ、鈴木正俊氏が解説します。

下級審は「規則的な勤務の臨時従業員=正社員」と判断

オーストラリアの法制度上、本来、臨時従業員は一時的な人手不足に対応するために利用されること(たとえば、収穫期の農作業、大規模イベントの手伝いなど)が予定されていました。しかし実際には、継続的な業務のため長期間にわたる利用が一般化していき、本来なら正社員とすべきところを、雇用調整(解雇)しやすいように臨時従業員として雇用するという事態が常態化していました。

 

そこに2016年以降、相次いでオーストラリアの連邦裁判所の下級審で「規則的かつ予測可能なシフトで継続的に勤務している臨時従業員(いわゆるRegular Casual Employee)は正社員とみなす」という判決が出されたため、オーストラリアで大変な注目を集めていました。

 

臨時従業員が正社員とみなされると、雇用者は正社員として継続的に雇用しなければならず、有給休暇や整理解雇手当などを与えなければならなくなります。ある試算によれば、135万人もいる臨時従業員が正社員とみなされた場合、雇用主はこれらの従業員のために過去6年分(時効期間が6年のため)の103億豪ドルの年次有給休暇や16億豪ドルの整理解雇手当のための引当金を積み立てなければならなくなるといわれていました(「Australian Financial Times」2020年6月17日記事※1)。

 

※1 https://www.afr.com/work-and-careers/workplace/high-court-asked-to-overturn-double-dipping-decision-20200617-p553ge

一方、豪連邦議会は下級審の判決を覆し…

2020年11月には、臨時従業員の該当性に関する紛争が連邦最高裁判所(High Courtと呼ばれています)で争われることになりました。その最高裁判所での審議中の2021年3月22日にオーストラリア連邦議会は、オーストラリアの労働基本法である2009年公正労働法の改正を行い、最高裁判所の判決を待たずに、立法的に臨時従業員に関する問題の解決を図りました。この法改正は2021年3月27日から適用されています。

 

改正後の公正労働法では、臨時従業員は「継続的かつ無期限に業務を与えるという確定的な事前の約束の下で雇用された従業員」をいうと定義されました(公正労働法15A条※2)。雇用されたあとにどのような勤務の実態があったか(規則的なパターンで継続的に勤務をしていたか否かなど)は関係なく、継続的で無期限に業務を与えるという確定的な事前の約束の下で雇われることになったかどうか、という点が臨時従業員の該当性の判断基準とされました。

 

※2 http://www8.austlii.edu.au/cgi-bin/viewdoc/au/legis/cth/consol_act/fwa2009114/s15a.html

 

これは「規則的かつ予測可能なシフトで継続的に勤務している臨時従業員は正社員とみなす」という、これまで連邦裁判所の下級審がとってきた臨時従業員の該当性の判断基準を否定して覆すものでした。

 

上記の公正労働法における臨時従業員の定義は雇用者側にとって有利な内容ですが、これとバランスを取って労働者側の保護を図る内容として、改正後の公正労働法では、雇用者は、「12カ月以上雇用されており、かつ、直近6カ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務している臨時従業員」に対して、原則として、正社員に転換することができる旨のオファーを出さなければならず、また、そのような臨時従業員は雇用者に対して正社員への転換を要求することができることになりました(公正労働法66B条と66F条)。

 

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