収束の見えないコロナ禍が、オーストラリアに魅力的な投資環境を出現させています。背景には、①コロナ禍による外資規制強化と中国からの投資の激減、②コロナ禍による国境の閉鎖、③投資分野の多様化、という3つの事情があり、これらを活用して有利なM&Aのチャンスをつかむ日本企業が増えています。日本と豪州の弁護士資格を保有し、豪州で10年の弁護士キャリアを持つ、鈴木正俊氏が解説します。

日本企業による豪州企業M&A…興味深い3つの特徴

筆者は、日本法とオーストラリア法の資格を有する弁護士として、オーストラリア現地において10年近く、日本企業によるオーストラリア企業のM&A取引を数多く取り扱ってきました。コロナ禍が始まった2020年初頭から2021年6月現在までの最近の日本企業によるオーストラリア企業に対するM&A取引の状況について、以下の3点のような興味深い特徴が見られ、日本企業にとって魅力ある投資環境がオーストラリアに生じています。

 

①コロナ禍による外資規制強化と中国からの投資の激減

②コロナ禍による国境の閉鎖

③投資分野の多様化

 

日本企業は、この投資環境を上手く活かすことができれば、オーストラリアにおいて有利にM&A取引を進めていくことができます。

 

これらの点について、以下詳しく説明します。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

コロナ禍による外資規制強化と中国からの投資の激減

コロナ禍の影響がオーストラリアにおいても深刻になり始めた昨年3月下旬、オーストラリア連邦政府は一時的に外資規制を強化し、外国企業によるオーストラリア企業の買収について、オーストラリア政府(外国投資審議委員会:Foreign Investment Review Board)の許可が必要になる金額基準をゼロとし、どのように小さな金額の買収であっても外国投資審議委員会の許可を必要とすることにしました。

 

それ以前は、外国投資審議委員会の許可が必要となる金額基準は、原則として約1,000億円(例外的にメディア、通信、運輸等のセンシティブな業界は約200億円)とされており、よほど金額の大きなM&A取引でなければ、外国投資審議委員会の許可は必要になりませんでした。また、この一時的な外資規制強化により、外国投資審議委員会による許可の判断期間がそれまでの1ヵ月から6ヵ月に延ばされることになりました。

 

これらの外資規制の強化は、コロナ禍の影響により業績が悪化したオーストラリア企業が、外国企業に安値で買い叩かれないようにして、オーストラリア企業を保護することを目的としていました。オーストラリア政府は公に認めることはありませんが、オーストラリアのメディアによれば、特に中国からの買収を懸念していたといわれています。

 

その後、オーストラリアは国内のコロナの封じ込めに成功し、国境の閉鎖によって影響を受けている航空産業、観光産業等を除き、多くのオーストラリア企業は業績を保つことができています。このことは、昨年3月に導入されたオーストラリア政府の倒産防止特別措置や補助金制度(JobKeeperと呼ばれています)が昨年12月と今年3月にそれぞれ期限が切れて終了したにもかかわらず、今年6月現在までオーストラリア企業の倒産数が大きくは増えていないことからもわかります。

 

今年1月からは、上記の一時的な外資規制の強化措置が撤廃され、外資規制はコロナ禍以前の状態に戻り、よほど金額の大きなM&A取引でない限り、外国投資審議委員会の許可は不要となり、許可の判断期間も原則として1ヵ月に戻りました。ただ、この一時的な外資規制の強化措置の撤廃と同時に、国家安全保障審査という新しい規制が導入されました。この規制は、外国企業によるオーストラリア企業の買収について、外国投資審議委員会が専らオーストラリアの国家安全保障の観点から審査をすることができ、オーストラリアの国家安全保障に懸念を生じさせると判断する場合には、買収を許可しないことができる、というものです。

 

この新しい国家安全保障審査の導入も、オーストラリア政府は公には認めませんが、中国企業によるオーストラリア企業の買収を念頭に置いていると一般には考えられています。アジア太平洋地域で勢力を伸ばそうとする中国とそれに対抗する米国の間の関係が緊張化している状況において、国家安全保障に関してオーストラリアは米国の同盟国であることから、オーストラリアに投資する外国企業の中で国家安全保障の問題が生じる可能性が高い企業は中国企業といえるためです。

 

2020年4月、オーストラリア政府がコロナウイルスの発生起源について独立した調査を要求し、これに反発した中国政府が報復措置としてオーストラリアからの石炭、ワイン、牛肉、大麦等の7品目の輸入について制限し、豪中関係は急速に悪化し始めました。2020年11月には中国外交部の報道局長がアフガニスタンにおいてオーストラリア軍の兵士が子どもにナイフを突き付けている画像をツイッターに投稿し、これにオーストラリア政府が抗議したところ、中国政府はオーストラリア軍がアフガニスタンで行った残虐行為を反省して謝罪をするべきはオーストラリアであると反論するという事件が起こりました。

 

さらに、2020年12月にはオーストラリアの州政府が外国と締結した協定について、連邦政府がオーストラリアの国益に反すると判断する場合には破棄できるとした法律が制定され、今年4月には、連邦政府がこの権限に基づいて、ヴィクトリア州政府が中国政府と締結した「一帯一路」に関する覚書を破棄しました。これに対して、中国政府は中国を挑発して豪中関係をさらに悪化させる行為であると激しく非難しています。

 

中国からオーストラリアへの投資金額は、2016年に158億豪ドルとピークでしたが、その後3年連続で減少しており、2019年には25億豪ドルであり、2018年度と比較して47%減となっています。そこからさらに2020年には10億豪ドルへと減少し、2019年度と比較して61%減となっています。

 

また、蒙牛乳業によるキリンホールディングスのオーストラリアの乳飲料事業の買収(2020年8月、買収価格6億豪ドル)や、中国建築によるオーストラリアの大手建設会社Probuildの買収(2021年1月、買収価格3億豪ドル)といった中国企業によるオーストラリア企業に対する大型M&A取引が外国投資審議委員会によって不許可とされ、白紙に戻されています。

 

ここ直近数年間において、これまでオーストラリアにとって大きな取引相手・投資者であった中国からの投資が大幅に減少しており、オーストラリアはその穴を埋める先として、安全保障上の同盟国であり、技術と資金を有しており、地理的に近く、長年にわたって友好関係を維持している日本企業に期待をしています。このため、オーストラリアでは、日本企業からの投資を特に歓迎しており、日本企業にとって有利な環境が生まれています。

 

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