経営難だから早期退職...というわけではない
かつては早期退職者を募集する企業といえば、経営が悪化しているケースがほとんどでしたが、いまではそうとも限りません。早期退職者を募集する企業が増えているのは、1つには、終身雇用という名の長期安定雇用が限界を迎えつつあることが背景にあるのでしょう。
終身雇用は年功序列と並び、日本型雇用制度の特徴とされてきましたが、組織の硬直化や人材の流動性の低下といったマイナス面が問題化し、より生産性の高い雇用制度への移行を模索する企業が増えてきました。
日本を代表する企業であるトヨタ自動車の豊田章男社長も2019年5月に、「終身雇用の維持は難しい」と発言し、2020年8月には、2021年から一律の昇給を見直して成果主義を拡大することを公表しました。
早期退職者募集の2つ目の要因として、高齢者雇用の問題も背景にあるでしょう。
日本ではいま、年金受給開始年齢の引き上げや受給額の減額、少子高齢化による労働力不足といった問題に対応するため、労働者の就業機会の延長が政策的に進められています。
2021年4月には、前年に改正された高年齢者雇用安定法により、労働者が望む場合には70歳まで働ける環境を整備するよう、企業側に努力義務が課されることになりました。
一方、多くの日本企業では、景気のよかったバブル時代に大量採用したバブル世代社員や、人口が相対的に多い団塊ジュニア世代社員が人員構成上のボリュームゾーンとなっています。
バブル・団塊ジュニア世代は、2020年代には40代後半〜50代前半に達し、管理職への昇進年齢にさしかかると同時に、賃金水準のピークに達します。そこで、業種を問わず、その世代の社員をどのように処遇するかが大きな経営課題となっています。いわゆる、「2020年問題」です。
将来的に人件費の負担の増加を抑えるとともに、組織内の新陳代謝を促進するため、経営の体力に余裕があるうちに、主に40代後半〜50代前半を対象に早期退職者を募集し、組織内の年齢分布のバランスを調整しようとする企業が増えているのです。
企業による雇用調整。これが外から忍び寄る典型的な「中年の危機」です。