早期退職はライフデザインをし直す絶好の機会
また、最近では多くの企業で「ジョブ型雇用」の運用が始まっています。日本では従来、職務内容を限定せず、ジョブローテーションを通じて幅広い業務を経験させる「メンバーシップ型雇用」が一般的でした。会社が命じる異動や転勤に従わざるをえない一方で、定年までの雇用は保障されました。
一方、ジョブ型雇用は、あらかじめ職務内容や職責を規定した職務記述書(ジョブディスクリプション)を策定し、成果に基づいて評価する。そのため同期入社でも給与格差が広がる可能性が少なからずあります。
企業がジョブ型雇用に転換している背景には、年功序列で画一的な待遇が、AIやデータ分析に長けた優秀な若年層や海外人材の獲得を難しくしていること、優秀な人材が海外に流出しかねないことなどへの懸念があるようです。
ある調査会社が2020年8月に国内主要約240社を対象に実施した調査によれば、3〜5年後にジョブ型雇用を導入する企業の比率は管理職(ラインマネージャー)で36%から56%に高まるとの結果が出たようですが、私自身は、経営職や管理職の仕事はジョブ型ではこなせないと思っています。社内外の多様な人々から情報を集めて課題達成や問題解決にあたり、創造性が今まで以上に求められるようになると考えています。
ジョブ型のもとでは、勤務年数に応じて昇給する年功型は否定され、中年世代にとっては、自分より若い世代が上司になるかもしれません。DXが加速すれば、デジタル化への適応力では、中年世代は若い世代と比べ、ハンディキャップが大きいことも否めません。
そして、ジョブ型導入と同時並行的に促進されると予想されるのが早期退職です。終身雇用の機能不全による早期退職の促進は、中年世代に対して、不安定要素をどんどん拡大させていくことでしょう。
ただ、確かに「中年の危機」ではありますが、壮年期を3期にわたるキャリアの2期目の始まりととらえると、違った意味を持つようになります。
外部環境の変化により、会社がこれまでと同じ事業をずっと継続していくとは限りません。自動車業界がその典型でしょう。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという事態も現実のものとなりつつあります。
であるならば、キャリアの第2期に向けて、自分の人生の棚卸しを行い、人生戦略を立て直し、ライフデザインをし直してみる。その絶好の機会でもあるのではないでしょうか。
久恒 啓一
多摩大学大学院客員教授・宮城大学名誉教授・多摩大学名誉教授