兄弟姉妹の場合、遺言書の前では手も足も出ないが…
では、兄弟姉妹に遺留分がないということは、具体的にどういうケースで差が出てくるでしょうか。
兄弟姉妹に遺留分がないことは、遺言を書かれてしまったり、生前贈与をされてしまったりすると、それに対し、なにも言えないということとなります。
例えば、親が第三者に遺産を全部相続させるという遺言を書いても、子どもは、法定相続分の2分の1について遺留分を請求できることとなります。
しかし、兄弟姉妹は、第三者(あるいは兄弟姉妹の1人)に遺産を全部相続させるという遺言を書かれてしまうと、なにも言えなくなってしまうのです。
本件のケースで言うと、Y子さんは、遺留分がないので、遺留分を請求できるとする②の選択肢は誤りとなります。
では、遺言書で、第三者に全部相続させると書かれてしまった兄弟姉妹は、どうすればいいでしょうか。
遺言の効力を争うほかありません。兄弟姉妹は、法定相続人なので、遺言が無効であれば法定相続人として遺産を相続できるからです。
自筆証書遺言が「覆せるかどうか」4つのポイント
本件のケースで問題となっている自筆証書遺言を無効にできるかどうかは、次の4点がポイントとなります。
①全文が自筆で書かれているか?
②日付が書かれているか?
③遺言者自身が署名捺印をしているか?
④遺言を書いた当時遺言者は判断能力があったか?
①全文が自筆で書かれているか?
自筆証書遺言は、全文自筆で書かれていなければ無効になります。ただし、民法の改正で、財産目録はワープロ打ちが可能となりました。しかし、ワープロ打ちした財産目録には各ページに署名捺印が必要なので、注意が必要です。
本件では、Xさんは亡くなる1年前は認知症で自分の名前を書くのも怪しいほどだったということですから、全文自分で書けなかったとして争える可能性があります。
②日付が書かれているか?
自筆証書遺言の場合、日付は重要です。日付がないだけで無効になります。本件のケースで、遺言書に日付がかかれていなければ無効となります。
③遺言者自身が署名捺印をしているか?
自筆証書遺言の場合、遺言者の署名捺印が必要です。ワープロで記名されていても無効ですし、遺言者の署名があっても捺印がなければ無効となります。
筆者も過去に相談されたケースで、全文自筆で書かれ、日付も署名もされているのに印鑑が押されていなかったばかりに、遺言としては無効となってしまう遺言書を見せられたことがあります。
本件では、Xさんは亡くなる1年前は認知症で自分の名前を書くのも怪しいくらいだったということですから、Xさんの署名も本人が書いたかどうかは争えると思います。本件で、捺印がなければ無効となります。
④遺言を書いた当時遺言者は判断能力があったか?
遺言作成当時に遺言者に判断能力がなければ、遺言は無効となります。単に認知症だったというだけではダメで、認知症が進行し、判断能力がなかったと言えないと無効にはなりません。
本件のケースで言うと、Xさんは亡くなる1年前は認知症で自分の名前を書くのも怪しいくらいだったということでしたが、単に手が動かないということでなく、自分の名前がわからないときがあるくらい認知症が進んでいたということであれば、判断能力がない可能性があります。
遺言作成当時の判断能力については、当時の診断書、介護施設の介護記録など客観的な資料に基づいて証明することが必要となります。これらについては相続人だからと言っても取り寄せができない場合もあります。その場合は、弁護士に依頼して弁護士会の照会制度を利用されるといいと思います。
本件の事情では、遺言の無効を争えば十分無効となる可能性はあると思います。遺言があり、遺留分がないからと言って諦める必要はないと思われます。
よって、本件の正解は③となります。
高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士
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