「株価が下落した」で損害賠償請求はできるのか?
3 株価減少の賠償請求はできるか
本事例の場合、Aは飲食店で働いている従業員ですから、Xとの間で雇用契約が成立しているはずです。その内容の1つとして、会社に損害を与えないようにする義務等が会社の規程等に当然記載されているでしょう。
ツイッターの投稿で会社の評判が落ち、売上減少等の損害が発生しますので雇用契約の義務違反(民法415条、債務不履行)として、損害賠償義務が生じます。規程がなく雇用契約の義務違反といえない場合、また、そもそも従業員ではなく、客が同様の行為をした場合には、民法の別の制度である不法行為(民法709条)に基づいて、損害賠償を請求できます。
2013年に発生した、アルバイト従業員が洗浄機に入る画像をSNSに投稿して大炎上し、蕎麦屋が倒産してしまったケースでは、従業員を相手取り1000万円以上を請求する民事訴訟が起きました。結果としては裁判上での調整で和解が成立し、事件に関わった4人が計200万円程度の賠償を支払ったと報道されています。
損害賠償を求める民事裁判では、実際の損害額を計算して、その賠償を求めることになります。
損害賠償額には、店舗の清掃・消毒代といった実費のほか、売上減少が明らかに著しい場合には、利益の減少額も請求できる可能性があります(材料費等の経費がありますから、売上減少額全体ではなく、最終的には利益の減少額が損害となります)。
ただ本件の事例において、株価の低下自体をもって会社の損害というのは難しいでしょう。そもそもX社の株を持っているのは、X社だけではなく個人投資家やその他企業も存在しますし、「株にはこうしたリスクがつきもの」と考えるのが一般的だからです。
一方で2019年にも発生した、全国的回転寿司チェーンや超大型コンビニチェーンを舞台にした事件では、1つの店舗だけではなく大企業全体の評判を下がりました。売上が大きく減少したことも考えられます。数千万から数億円といった莫大な金額の賠償請求も視野に入れることでしょう。現に、某回転寿司チェーンは「断固たる措置を執る」と宣言していました。
さきほどの蕎麦屋の件は和解で終わっていますので、計算の根拠等は不明です。ただ、こうした事件では、SNSの使い方の分別すらつかない若者であり、支払い能力がない者であると考えられ、実損額すべての賠償を得るのは難しいでしょう。