高圧的に怒鳴り散らす一方、相続手続きは頓挫
しかし、そこからが大変でした。いとこは何事も上から目線で、書類の記入漏れや不足があると、いちいち事務所に呼び出しては、従業員の目の前で怒鳴り散らすのです。父親が存命中はすべて任せきりでしたが、対応の不満は聞いたことがありませんでした。
「たぶん、母や私を世間知らずだと思ってなめていたのでしょうね。弟たちもずっと年齢が離れていて、子どものときから軽くあしらわれていましたし…」
高齢の母親をいとこの事務所に通わせるわけにもいかず、弟たちも仕事を理由に対応を嫌がるため、仕方なく和田さんが窓口になりました。
しかし、手続きの進捗状況を問い合わせる電話を入れても、いかにもうっとうしそうな対応で、聞きたいことがなにも聞けない状況です。家族でやきもきしていると、申告期限1ヵ月を切ったあたりで、突然「財産の分割は相続人で決めるように」との連絡が入り、突き放されてしまいました。
和田さんの家族は途方に暮れてしまいました。
「広大地評価の対処ができないので、外注する」
和田さんは必死で情報を収集し、事務所に何度も問い合わせたところ、相続税の概算は出てきましたが、広大地評価は自分では対処できないため、これから外注するところだと説明がありました。そして、広い自宅に広大地を適用するため測量が必要だといわれて承諾したところ、登記簿の面積より1.5倍も広いことが判明しました。土地を路線価で評価すると、当然ながら面積が増えたことで評価も1.5倍になり、相続税額も増えてしまいます。
配偶者の特例を使ってもなお納税が必要な計算結果となったため、大急ぎで売却する土地を決め、いとこの紹介先の不動産会社に依頼したのですが、見積もりの回答すらもらえません。和田さんが筆者の事務所に駆け込んできたのは、このタイミングでした。
勝手な税理士に振り回され、財産がとんでもないことに
いとこの税理士の説明はなにもかも中途半端で、和田さんは納得できないことばかりで、不満は募る一方でした。しかも親戚とはいえ、これまで親しくしていたわけでもなく、気軽な対話はおろか威圧的で、80代の母親はすっかりトラウマです。会社員をしている弟たちすら逃げ回り、和田さんも心底ウンザリしていました。
相談を受けた筆者は、申告期限まで時間がないため、二次相続を踏まえた分割や納税の案を速やかに作成する必要があるとお話ししました。
ところが、和田さんがいとこの税理士に伝えたところ激怒され、自分の方針で進めるとの一点張りです。また、ほかの親族もいとこの味方についてしまい、和田さん家族は結局断ることができず、時間切れとなってしまったのです。
その結果、広大な土地は共有状態となり、相続税の節税も実現できず、納税資金のために売却した土地は安く買いたたかれ、さんざんな結果になってしまったとの連絡がありました。
相続対策は極めて重要、人任せにしないで
じつは税理士にも領域によっては得手不得手があり、すべての税理士が相続手続きに手腕を発揮できるとは限りません。また、今回のケースのように、親戚だからといって安易に依頼してしまうと、余計なしがらみが発生し、かえってやりにくくなる場合もあるの要注意です。
また、そもそも対等な関係が築けておらず、聞きたいことも聞けない状況では、納得できる結果に着地することは無理ではないでしょうか。相続は、大切な資産にかかわる重大な問題です。取り返しのつかない結果にしないためにも、しっかりと目的意識をもって取り組むことが重要なのです。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。