カギを握る「謎の米金利低下」の行方を探る
ここで、上述のように米10年債利回りの90日MAからのかい離率がマイナス30%以上に拡大した3回のケースにおける経済環境を確認してみましょう。
2011年9月は欧州債務危機の最中でした。欧州の大国であるイタリアやスペインまでも財政破綻しかねないとされたこの経済危機は、世界的なリスクオフをもたらし、米金利も大幅に低下したわけです。
次は2019年8月。これは、FRB(米連邦準備制度理事会)が「予防的」利下げを行っている最中のことでした。この年の7~9月期米GDP成長率は2%だったので、ほとんど米国の潜在成長率に近い水準にあり、国内景気の観点から利下げの必要性は感じられませんでした。
しかし、当時米中貿易戦争等への警戒などから株価も急落する場面があったことから、景気回復の腰を折ることにならないように、「保険」「予防」という意味で、トータル3回の利下げを行ったのです。
そしてそんな利下げが継続的に行われるなかで、長期金利の米10年債利回りも一段と低下したわけです。
最後の2020年3月は、いうまでもなくコロナ・ショックです。突如浮上した新型コロナ・ウィルス感染の世界的流行による世界経済への影響を懸念し、世界的な株大暴落が起こるなかで、米金利も大幅な低下となりました。
以上のように、米10年債利回りが90日MAを30%以上も下回るといった記録的な「下がり過ぎ」となった3回のケースは、当時の経済環境を見ても金利低下が大幅に進み、「オーバーシュート」しやすかったといえるのではないでしょうか。
米4〜6月期成長率は6.5%…「景気回復」の兆候か
これに対して最近は、たとえば先週発表された米4〜6月期成長率は6.5%でした。事前予想は下回ったものの、コロナ後景気回復が続いていることを示す結果といえるでしょう。そういったなか、主要な株価指数は軒並み最高値更新が続きました。このようなリスクオンの環境は、上述とはかなり異なります。
リスクオフ局面で「安全資産」の国債が選好され、国債価格が上昇、国債利回り=金利が低下、時にそれがオーバーシュートし、金利が「下がり過ぎ」となることはわかる気がします。しかし、それと反対のリスクオンでは、金利低下には自ずと限度があるのではないでしょうか。
改めて、図表5の米10年債利回りの90日MAからのかい離率を見てみましょう。今年3月にかけて米10年債利回りが1.7%以上に急騰した局面で、同かい離率はプラス50%以上と、確認できる限りで最高に拡大しました。要するに、当時の米金利は未曽有の「上がり過ぎ」だった可能性があったわけです。
その反動から米金利は低下し、勢い余って今度は一転「下がり過ぎ」となったというのが、リスクオン局面にもかかわらず金利低下が止まらない、「謎の金利低下」の背景ではないでしょうか。
それにしても、「リスクオンでの金利低下」は、普通に考えたら限度がありそうです。これまで見てきたことからすると、米10年債利回りの90日MAからのかい離率はさらにマイナス30%以上に拡大する可能性は低いのではないでしょうか。
いい換えると、「謎の金利低下」は終わりが近づいており、米ドル/円は米金利の影響が大きいことに変わりないなら、下落リスクも基本的には限られるでしょう。
吉田恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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