(※画像はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、私たちは歴史に例を見ないほど長期間の就労に従事することになりそうです。開業医も同様で、30年、あるいは40年にわたって診療し続けるケースも考えられます。しかし、転勤もなく、社会的責任から容易に廃業できない開業医は就労のプレッシャーをどのようにかわしていけばいいのでしょうか。自身もクリニックを経営する医師であり、数多くのクリニックのコンサルティングを行ってきた蓮池林太郎氏が解説します。

転勤することも、休診することもできない開業医

医学の発展によって私たちの寿命は長くなりました。「人生100年時代」は比喩ではなくなり、人生100年時代の働き方をテーマとした雑誌や書籍も多数出版されています。

 

長い人生、会社員であれば、新天地を求めて違う会社へ転職することもできますし、いったん仕事を小休止して、半年や一年ぐらいのんびり過ごすこともできるでしょう。

 

そして会社員同様、開業医の職業人生も長くなってきています。仮に40歳で開業、70歳で閉院したとしても30年間、もし80歳まで続けたら、40年間開業医として働くことになります。

 

しかし開業医の場合、開設したクリニックを長期間休診することは現実的に難しく、かといって閉院して別のクリニックへ転勤することも、なかなか困難だといえます。

 

ではなぜ、開業医は長期間休診することも、転勤することも難しいのでしょうか?

 

患者さんは、1ヵ月ごとなど定期的に通院・薬を処方されて服用しています。もし、長期間休診すると患者さんが困ってしまいますし、薬を処方してもらうためにほかのクリニックへと通院先を変更しなければなりません。

 

また、クリニックを開業する際、多くの開業医は銀行から多額の借金をします。テナントを借りた場合も、クリニックの内装工事と医療機器の購入で、数千万円以上もの借金をします。しかし、医療機器を売却したところで二束三文です。

 

いくら収入が安定しているクリニックでも、数千万円の借金をすぐさま返済することはできません。地方の開業医の場合は、土地や建物も購入し、1億円以上の借金をすることもあります。

 

仮に閉院したとしても、クリニックの少ない地域であれば、多くの患者さんが通院先を失うことになるのです。

医師のすべてが開業医に向いているとは限らない

医師になるには、難関の医学部に合格し、なおかつ医師国家試験に合格する必要があります。また、医師になる人は受験戦争を勝ち抜いた偏差値の高い人で、記憶力も優れ、目標に向かって勉強を続ける持続力も持ち合わせています。

 

では、能力が高く努力家なら、みんな開業医の仕事に適性があるかというと、そうとは限りません。しかし、大学で研究を続けたり、大学病院や総合病院に勤務したりする医師よりも、開業医となる医師のほうが多数派なのです。

 

筆者の推察ですが、一般的に偏差値が高い人は、どちらかというと内向的な傾向があり、開業医として毎日多くの患者さんと接し、コミュニケーションしていく能力とは逆相関関係があるかもしれません。

 

繁盛する開業医には「専門性」と「人間性」が優れているという共通点があります。専門性はもちろんですが、日々多くの患者さんに笑顔で親切に接し、わかりすく丁寧なコミュニケーションをし、共感力や愛想のよさを発揮するという「人間性」も、開業医として必要でしょう。開業医は、そのような対応をクリニックが閉院するまで続けなくてはいけないのです。

 

もちろん、地域の人々に信頼され、診療を自分のライフワークとし、充実した毎日を送っている開業医もいますが、なかにはそうでもない開業医もいるわけです。「医師=開業医に向いている」とは限らないのです。

 

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