【関連記事】せっかく開業医になっても…「年収激減」の鮮明過ぎる未来図
人口当たりの診療所数は、地域によって大きな差がある
筆者はクリニックの開業支援をおこなっていますが、人口あたりのクリニックの数は地域によって大きなバラツキがあり、医療において地域格差があります。
都心部ほど人口あたりのクリニックが多く、東京都内であれば、都心3区と呼ばれている港区、千代田区、中央区が最も開業人気が高くなっています。次いで渋谷区、新宿区なども人気があり、都心3区と合わせて都心5区と呼ばれています。
都心5区はちょうど山手線の新宿駅から東京駅を内回り、中央線の新宿駅から東京駅を結んで囲んだ地域付近、つまり山手線の下半分が最も激戦区となります。
このように、都心部ほど人口あたりの診療所数が多い一方で、都心部から離れれば離れるほど人口あたりの診療所数は少なくなります。
都心5区以外にも、豊島区、品川区、文京区などの都心部に近い地域は診療所数が多いのに対し、足立区、葛飾区、江戸川区、練馬区、板橋区などの都心部から離れている地域は、診療所数が少なくなっています。
このように、東京都内では、都心(都心5区)、都内(都心5区を除く18区)、そして都下(市部)では、自治体ごとに診療所の数が大きく異なるため、人口あたりの診療所数も違ってきます。
また、東京都と隣接する県の人口あたりの診療所数を比べてみると、
東京都 :人口1,350万人 診療所数12,000軒 人口1万人あたり診療所数8.6
神奈川県:人口910万人 診療所数6,000軒 人口1万人あたり診療所数6.6
千葉県 :人口620万人 診療所数3,200軒 人口1万人あたり診療所数5.2
埼玉県 :人口730万人 診療所数3,700軒 人口1万人あたり診療所数5.1
というように、東京都と隣接する県においても、人口あたりの診療所数が大きく違います。
都心部ほど家賃が高く、看護師等の人件費も高額に
家賃は都心部になるほど高くなり、駅前のビルは、空中階でも1坪あたり2~3万円前後かかります。また、医療事務や看護師の人件費も、都心部ほど高い傾向があります。
都心部でも地方でも保険点数は同じですから、家賃や人件費が高いことは、収益の悪化に繋がります。
例えば、同程度の規模の駅近ビルで、いずれも空中階であっても、それぞれ家賃は、都心の駅なら1ヵ月あたり1坪2万円前後、都内の駅なら坪1万円強、都下の駅なら坪1万円弱と、都心と都下では2倍近くの家賃差があります。
これが30坪のクリニックを借りることになると、都心と都下なら1ヵ月30万円ほど差がある計算になります。
現在も都心部のクリニック(無床診療所)数は増え続けており、将来的にもクリニック数が増えていくでしょうから、都心部のクリニックは、より経営が厳しくなっていくことが想定されます。
なぜ医師は「激戦区」の都心部にばかり開業するのか?
開業を考える医師は、クリニックが集結し、競争も激しい都心部を開業場所に選びやすく、クリニックが少なく、さほど競争が激しくない地域は、なぜか開業場所に選びません。
その理由について、実際に都心部の開業医に聞いてみたところ、いくつか共通する理由がありました。
●家を買ってしまった
一般的に、開業するのは30代中盤から50代くらいまで、といわれています。そのため、開業前の勤務医時代に結婚し、すでに家を購入してしまっているケースが多いのです。
勤務先である大学病院や総合病院は都心に集まっていることもあり、勤務医も比較的都心部に自宅を構えることが多いのですが、開業のために自宅を売却したり、賃貸に出したりして、住み慣れた街から引っ越すのは、心理的抵抗があるようです。
そうなると、自宅の最寄り駅が乗り換えなしの1路線のみの駅であれば、開業する立地は、電車で10分以内、最寄り駅と、上り・下りそれぞれ2駅を合計した5駅ほどが、選択肢となるわけです。したがって、自宅と同地域の、都心部の駅のみに限られてしまうのです。
仮に乗り換えがあったとしても、自宅から30分以内の場所が限界のようです。なかには、長時間の通勤をする覚悟で都心部から離れた地域に開業する医師もいますが、そういった医師はごく少数です。
●子どもの進学の関係で都心部から動けない
子どもの教育に熱心な家庭は多く、人気の公立小学校の学区や、都心部にある名門私立小学校に通学できる場所に集まりがちです。都心部に住む医師の子どものほとんどは、中学受験をして私立中高一貫校に進学しますから、それも影響しているでしょう。
●ライフスタイルにこだわりがある
都心は便利ですし、高級住宅地に暮らすことは一種のステータスでもあります。子育てが終わったあとも、引き続き便利で魅力的な都会生活を満喫したいという人は多いのです。
開業志望なら「開業まで家は買わない」ほうが合理的
クリニックの開業は、大きく稼げる可能性がある一方、リスクでもあり、経営がうまくいかなければ、せっかく購入した家を手放すことにもなりかねません。逆にいうと、大きく稼げるめどが立てば、資金に不安を感じることなく、自宅を建築できるわけです。
そのため筆者は、開業志望の医師に「開業するまで、自宅を購入しないほうがいいのでは?」とアドバイスしています。
自宅を購入しておらず、開業する地域に縛られていない状況であれば、需要が供給を上回り、競合が強くなく、多くの患者数が見込める「開業に適した場所」を吟味し、選ぶことが可能です。
都心部でも、適した場所を頑張って見つければいいと考えるかもしれませんが、仮に見つかったとしても、将来的には競合が新たに開業しやすい地域であることには変わりありません。
住む場所を決めてから開業場所を決めるよりも、開業場所を決めてから住む場所決めた方が合理的だといえるのです。
蓮池 林太郎
新宿駅前クリニック 院長
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】