「落ち着いて、僕の話を聞いてください」…患者を救った「医師の言葉」 (※画像はイメージです/PIXTA)

患者を救った医師の言葉を紹介する本連載。今回取材したのは、先天性難聴の娘を持つ田中美希さん(仮名)です。離婚を乗り越え、娘と歩む覚悟を決めるきっかけとなった、医師の厳しくも温かい言葉とは。

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まさに母親として頑張っていこうと思った矢先

私は、15年前に娘を出産しました。

 

妊娠から出産まで大したトラブルもなく、また健康管理にも気をつかい胎児の健康を考えた食事を摂ったり、マタニティビクスにも通ったりと、助産師さんにも「模範的」と言われるマタニティライフを過ごしてきました。

 

出産直後から母乳育児にも積極的に取り組み、まさに母親として頑張っていこうと思った矢先、娘の異常を知らされることになります。

 

それは、産院を退院する日のことでした。

 

他のところには問題がなかったのですが、新生児聴覚スクリーニング検査で、両耳ともリファー、つまり要精密検査を告げられたのです。

「落ち着いて、僕の話を聞いてください」

私は、目の前が真っ暗になりました。産院から紹介状を受け取ると、指定された病院への予約を取ることになりましたが、受診まで日にちが空いたこともあり、正直生きた心地がしませんでした。

 

大学病院まで夫に送ってもらいましたが、運転席の夫も無言でつらかったです。

 

病院で精密検査を受けましたが、結果はやはり先天性難聴という診断でした。生後数ヶ月にも満たない赤ちゃんに補聴器をつけなくてはならないという現実に、私は涙が止まりませんでした。

 

そんな私に、娘の主治医がこう切り出しました。

 

「落ち着いて、僕の話を聞いてください」

 

娘の主治医は初老の男性なのですが、その優しく落ち着いた声に私も夫も顔を上げて先生のおっしゃったことにじっと耳を傾けました。

 

「お母さんは、妊娠中からとても頑張っておられたのは、とてもよく伝わってきます」

 

妊娠中のことを労われたのは意外なことで、とても驚きました。夫も、ハッとしたような顔で、私のほうを見つめます。

 

「今日も、ここに来るまでの間、いろいろな葛藤があったことでしょう。産院から紹介状をもらってすぐうちの病院に予約を入れた、お身体も大変な時期なのに、これはなかなかできないことです」

 

私は、嬉しいのと同時に、これから告知されることついて次第に覚悟を決めていきました。

 

「先天性難聴のお子さんは、1000人に1人の割合で生まれてきます。これは、いくらお母さんが妊娠中に身体に気を遣っていたとしても、どうしようもないことなのです。原因はさまざまあると言われていますが、わからないことのほうが多いのも現実です」

 

「これからお子さんは、ろう者として生きていくことになりますが、その子の宿命とともに生きていきましょう。親として、やれる範囲のことをやって、大人になって困らないように導いていきましょう。使える社会資源はすべて使っていいのですから」

夫との離婚、娘の手術…困難に直面したとき蘇ったのは

私はそれからまもなく、娘に補聴器をつけました。療育にも通い、私の両親は理解を示してくれましたが、夫の両親の理解がなかなか得られませんでした。幸い、夫は私の味方をしてくれましたが、自分の両親と私との間で次第に板挟みになっていき、娘が3歳の誕生日を迎えるころに別れを切り出してきたのです。

 

私はこれも、仕方のないことと受け止め、シングルマザーとして両親とともに娘を育てることにしました。

 

補聴器をつけた娘ですが、次第に聴力が落ちていき、主治医から人工内耳の手術を勧められました。人工内耳ともなると、頭に電極を埋め込むことになるため、さすがの私の両親も抵抗感が拭えませんでした。何度も何度も話し合ってもなかなか結論が出ないため、疲れを覚えたとき、娘が赤ちゃんのころに主治医に言われた言葉がふと蘇ってきたのです。

 

私は、両親を納得させなくてはという思いに囚われていましたが、娘とともに生きているのは親である私ですし、娘が将来困らないように導く役目もまた、親である私の仕事と思い直し、娘に人工内耳装着手術を受けさせることにしました。

 

同時に、身体障害者手帳の取得に踏み切りました。娘が自分の障害を理解して必要なサポートを受けられるようにするための、1つのツールであると考えたからです。

 

今、娘は中高一貫型の聴覚障害特別支援学校に在籍し、大学進学を目指して勉強に励んでいます。最初は、近所の子と一緒の学校に行けないことで落ち込んでいた娘でしたが、障害をよく理解してくださる先生方の指導のもとで、社会に出たときに必要なスキルを身につけることができるということに納得したようです。娘が一段落ついたことで、私も仕事を持つようになりました。娘のことを思い、ともに障害に向き合った日々があったからこそ、今の生活がとても有意義なものになっています。

 

それも、あの日私を救ってくれた先生の言葉があったからこそと思っています。
 

 

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著者紹介

連載私を救った医師の言葉

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