(写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年7月7日に公開したレポートを転載したものです。

4―総括

老後の生活のために必要かつ十分な資産を準備できなかった世帯を想定し、老後の資産運用について検討した。このような検討に取り組んだのは、「正しくリスクを避けるためには、最も避けたいリスクを明確に理解し、更にリスクへの対処法を検討することが重要である」にも関わらず、老後の資産運用において避けるべきリスクが明確でないのではないかという疑問を持ったからである。

 

老後の資産運用において避けるべきリスクが明確でない理由は、これまで資産運用は現役時代に行うものであり、老後の資産運用は一部の富裕層など、資産運用に伴うリスクに寛容な世帯に限られていたからではないだろうか。近年は、資産運用に伴うリスクに寛容でない世帯にも老後も資産運用を続けるよう促す動きある以上、老後の資産運用において避けるべきリスクの明確化と対処法の検討が急務と考える。

 

資産運用におけるリスクとは、一般に期間収益率(通常1年間)のぶれの大きさを意味するが、老後の生活のために必要かつ十分な資産を準備できなかった世帯にとって、避けたいリスクは期間収益率のぶれではなく、資産運用に失敗し資産が枯渇するリスクではないだろうか。

 

適切な対処法は、各世帯の資産準備状況やリスクへの考え方などによって当然異なるが、大きく2つに分類できると筆者は考えている。1生活水準が低下するより、資産運用に失敗し資産が枯渇するリスクの完全排除を望む世帯に適した対処法と2資産運用に失敗し資産が枯渇するリスクを多少負う代わりに、生活水準の確保を望む世帯に適した対処法である。

 

資産運用のリスクを完全に排除したければ、終身年金など利率保証型の金融商品を購入すればよい(1)。もちろん、こうした金融商品の購入先は慎重に倒産等しない金融機関を選定すべきである。

 

一方、資産運用に失敗し資産が枯渇するリスクを多少負う代わりに、生活水準の確保を望む場合は、安直に低リスク・低リターンの金融商品を選択するより、資産の取り崩し方や、資産運用を終了する条件などの出口戦略や、中長期平均的な収益率が低下した場合に備えた対応策を用意しておく方がよい(2)。

 

資産運用である程度のリターンを獲得するには期間収益率のぶれ(価格変動リスク)が避けられないのだから、資産の取り崩し方や、資産運用を終了する条件などの出口戦略は、期間収益率のぶれ自体を上手く利用するよう策定するとよい。具体的には、資金計画を阻害するような局面での売却を避ける戦略を立てれば良いだけである。

 

実現収益率が低下した場合への対応策も2つに分類可能と考えている。2-1資産の効率的な活用よりも生活水準の安定を重視する世帯に適した対応策と2-2生活水準の安定よりも資産の効率的な活用を重視する世帯に適した対応策である。

 

生活水準の安定を重視するなら、年金受給開始時点に保有資産額の一部を危機準備資金として取っておき、更に定期的に保有資産の時価総額把握し、今後の生活水準を維持するために十分な資産を確保できるほど、株価が上昇した時に一斉に売却すれば、資産運用に失敗し資産が枯渇するリスクの軽減が期待できる(2-1)。一方で、資産の効率的な活用を重視するなら、実現収益率の低下の兆候を早めに察知し、適宜取り崩し額を増減することで、資産が枯渇するリスクの軽減が期待できる(2-2)。

 

資産の取り崩し方や、資産運用を終了する条件などの出口戦略や、実現収益率が低下した場合に備えた対応策の策定にも労力が必要だが、継続的な実行にはより多くの労力と知識が必要となる。

 

また、高齢期には認知・判断機能が低下し、計画的な資産の取り崩しを実践できなくなる可能性も否定できない。従って、金融機関や運用会社等が高齢者のために戦略や対応策を明確に提示し、提示した通り資産の取り崩しなどを機械的に実行してくれるような、マス層(非富裕層)向けの金融商品・サービスが開発され、社会全体のコストが相当軽減されることを期待したい。

 

[図表9] タイプ別資産枯渇リスクを負避ける資産取崩し方法
[図表9] タイプ別資産枯渇リスクを負避ける資産取崩し方法

 

 

高岡 和佳子

ニッセイ基礎研究所

 

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