(写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年7月7日に公開したレポートを転載したものです。

2―リスクに対する対処法の提案

1|価格変動リスクの対処法(出口戦略)

投資の基本は「安く買って高く売る」だが、意思決定時点において、これから価格が下がるか上がるかは分からない。このため、高いか安いかを判断できないという問題がある。しかし、生存中の資産枯渇回避が第一優先ならば、より高く売却する必要はなく、資金計画の遂行に支障ない価格であれば売却しても問題はない。つまり、資金計画策定上の基礎となる期待収益率を上回る場合は売却し、それ以外の場合は売却を保留すればよい。

 

売却を保留するような環境下でも、生活のために、資金を取り崩さなければいけないので、価格変動リスクを伴わない現預金等も保有しておく必要がある。そこで、退職時の資産のうち一定割合を価格変動リスクが伴う資産(以下、投信)に投じて残りは現預金として保有し、投信を売却するか、現預金を取り崩すかを毎年判断するという戦略を原則とする[図表2]。

 

[図表2] 出口戦略のイメージ
[図表2] 出口戦略のイメージ

 

また、退職時点で必要かつ十分な資産が準備できなかったために、老後に負いたくもないリスクを負い資産運用を継続する必要に迫られ、生存中の資産枯渇回避を第一優先と考える高齢者ならば、資産価格が上昇し、その後の生活に必要十分な資産に達した段階で投信を全売却するという選択肢がある。そこで、状況によっては途中で全売却するパターンと全売却しないパターンの2パターンを比較・検討する。

 

2|収益率低下リスクの対処法

いつ価格が上がるか下がるかは分からなくても、老後の期間の中には価格が高い時期と低い時期があるのはほぼ確実なので、毎年の状況別の行動指針を事前に策定するが、中長期的な収益率低下リスクが顕在化するかは分からない。このため、事前にリスク発生に備える対処法(事前準備型)とリスク顕在化した時の対処法(柔軟性確保型)を考える[図表3]。

 

まず、事前準備型の対処法は予想外の収益率低下に備え専ら定期的な取り崩しに充てる資産とは別に、危機準備資金として取っておく資産を用意するという方法だ。危険準備資金相当分をどのように保有するか(投信か現預金か)によってバリエーションがあるが、今回はその他の資産を同様に、資産運用することとする。

 

この場合、危機準備資金として取っておくことは、実際よりも危機準備資金の分だけ、保有資産が少ない前提で資金計画することになる。いわば、その分毎年の取り崩し額が減少することに他ならない。危険準備金として取っておく資産の割合が高いほど、生存中に資産が枯渇する可能性は低いが、同時に毎年の取り崩し額が減少する。

 

一方、柔軟性確保型の対処法は、定期的に収益率低下傾向の有無を確認し、収益率低下の可能性が高いと判断した場合に、その時点で資金計画を見直し、取り崩し額を減額する方法である。収益率低下の可能性は統計的仮説検定を用いて判断する。統計的仮説検定とは確率を基準に結論を導く方法で、今回は「将来振り返ってみれば、実現収益率は期待収益率と同程度かそれ以上なのに、たまたま退職後当初の平均収益率が低い確率(以下P値)」を基準に判断する。

 

例えば、P値が30%以下になった時点で取り崩し額の減額を行う場合、将来振り返ってみれば、実現収益率は期待収益率と同程度かそれ以上なのに、誤って減額してしまう可能性が30%あるということだ。P値が30%以下になった時点で取り崩し額の減額を行う場合と、10%以下になった時点で取り崩し額の減額を行う場合との比較だと、30%方が、取り崩し額を減額する頻度が高いが、減額時の減額率は小さいと考えられる。

 

なお、取り崩し額の減額が必要と判断された場合、新たな取り崩し額はその時の状況に応じて再設定する。理論上、統計的仮説検定を用いて収益率上昇の可能性が高いと判断することも可能だが、取り崩し額の増額は検討しないこととする。

 

[図表3] リスク対応のバリエーション
[図表3]リスク対応のバリエーション

 

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