長期的にはインカムゲインで資産を増やしていく
前回ご紹介した計算式を見て(下記図表参照)、200万円の不動産運用損に対して、節税効果が86万円では、114万円のマイナスではないか、と思われた方、心配ありません。
運用損には、「減価償却費450万円」が含まれていることに注目してください。この減価償却費450万円というのは、損益通算上マイナスとして計上していますが、実際に皆さんの手元にある現金等のキャッシュが減るわけではありません。
一方で諸経費については、物件の購入時には、不動産取得税や登記代、火災保険料、リフォーム代などさまざまな経費がかかるので、その分は実際の支出となります。
しかし、これらの経費は5年後に資産10億円にするための先行投資です。けっして無駄ではありません。しかも毎年払うことのない建物の減価償却費が半分近くを占めているので、実際には現金が手元に残ります。さらに給与所得と損益通算できることで節税効果もあるのです。
もちろん不動産運用は、家賃収入がローンの返済も含めて支出よりも多くなり、黒字になるのが大前提です。この前提がなければやる意味がありません。一方で不動産運用を始めてから1年から2年は、このように諸経費がかかるため、マイナス決算になることは想定しておくべきです。
不動産運用とは、この期間を過ぎたら黒字になる物件を購入することです。黒字になれば、給与所得と合算して節税対策をすることはできなくなります。ですから節税はあくまでも最初の効果として、長期的には当然、運用(=家賃収入)によるインカムゲインによって資産を増やしていく、というものだということはおさえておいてください。
【図表 損益通算による節税額の計算】
「サ高住」のオーナーに医師は理想的
医師が不動産を持つメリットは、利益を生む単なる賃貸物件としてだけに留まりません。将来、自分の医院はもちろん、さまざまな形態の医療施設を開業することを可能にするという布石にもなります。
たとえば医療施設でいうと、近年注目を浴びているものとして、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」があります。
近年は高齢者向け住宅が不足しています。総務省の『住宅・土地統計調査』(2013年)によると、高齢者(65歳以上)のいる世帯は2086万世帯で、全世帯の4割を占めています。前回調査の2008年では1820万世帯でしたから14.6%も増加したことになります。この中でも高齢者単身世帯は33.5%(139万世帯)増、高齢者のいる夫婦のみの世帯が14.3%(73万世帯)増で、高齢者単身の世帯数は552万世帯。高齢者のいる世帯の26.5%を占め、過去最高になっています。
高齢者のいる世帯のうち持ち家は82.8%ですが、持ち家のバリアフリー化は進んでいません。2009年以降に高齢者のために工事(将来の備えを含む)を行った世帯は全体の13.3%で、高齢者のいる世帯だけを見ても20%しかありません。
『介護保険事業状況報告』によれば、2013年の65歳以上の第1号被保険者数は3100万人で、そのうち要介護認定者は550万人です。この中で約7割は自宅で介護を受けています。特別養護老人ホームの入居待ちが52万人を超えていることからも、いかに施設が不足しているかが分かります。
こうした背景に加え、日本は多額の財政赤字を抱え、人口減によって税収の増加も望めないことから、高齢者のケアを病院から在宅へとシフトさせることを目標に2011年の「高齢者住まい法」改正によって創設されたのがサービス付き高齢者向け住宅です。この住宅は療養型病院の退院後の受け皿としても有効なので、医師がオーナーとなるのは理想的といえるのではないでしょうか。
さて、このサ高住は住宅としてではなく、高齢者の生活支援に対しても補助金などの優遇措置が受けられる施設です。
一般的な賃貸住宅の収益は、ほとんどが家賃からですが、この住宅では4つの収益構造が実現するのです。具体的な収益としては、家賃のほか診療報酬、介護報酬、生活支援サービスの対価を得ることができます。
介護報酬とはサ高住のオーナーなどの事業者が、要介護または要支援者に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われる報酬です。サービス事業者がサービスを提供した場合の対価は、利用者が1割、保険者(市町村)が9割の負担となります。
たとえば要介護2の人に20分以上30分未満の訪問介護を行った場合の報酬は2550円(利用者負担255円)といった形になります。ただし介護報酬は、サービス内容や施設の所在地などによって決定されます。サービスを提供される側からすると、数多くのサービスが整っている方が快適で、提供する側からするとより多くのサービスが提供できるほど対価が得やすくなるわけです。