1.概観
【株式】
6月の主要国の株式市場は、概ね底堅く推移しました。米国では、連邦公開市場委員会(FOMC)で予想外に利上げ前倒しの見通しが示され一時下落しましたが、長期金利が落ち着いて推移したことから持ち直し、NYダウが横ばい、ナスダック総合指数やS&P500指数は過去最高値を更新しました。欧州では、コロナワクチン接種が進み、行動制限が緩和されたことなどから景気回復期待が高まり、小幅に上昇しました。日本では、日経平均株価がFOMCのタカ派的内容を受けて一時急落しましたが、海外市場の反発や投資家の押し目買いから持ち直し、前月末比ほぼ横ばいでした。
【債券】
主要先進国の10年国債利回り(長期金利)は低下しました。米国では、6月のFOMCで米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ時期の想定を前倒ししたことを受け、長期金利は一時1.5%台後半まで上昇しましたが、すぐに落ち着きを取り戻し、低下に転じました。一方、短期や中期の利回りは上昇したままで、イールドカーブはフラット化しました。欧州では、欧州中央銀行(ECB)が金融緩和政策の現状維持を決定し、長期金利が低下しました。日本でも、金融政策決定会合で大規模緩和が維持されるなか、長期金利は低下しました。社債については、景気回復期待から国債と社債の利回り格差が縮小しました。
【為替】
FOMCのタカ派的内容を受けて、円相場は対米ドルで下落した一方、対ユーロや対豪ドルなどでは上昇しました。
【商品】
原油価格は70ドル台へ上昇しました。コロナワクチン接種と行動規制の緩和が進み、経済正常化に伴う需要増への期待が一段と高まりました。
2.景気動向
<現状>
米国の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.4%となりました。個人消費の大幅な回復を背景に、3期連続のプラス成長となりました。
欧州(ユーロ圏)の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比▲1.3%となりました。改定値からやや上方修正されました。
日本の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲3.9%とマイナス成長でしたが、在庫と政府支出を主因に1次速報値から上方修正されました。
中国の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+18.3%となりました。製造業投資の回復や消費の持ち直しがプラスの寄与となりました。
豪州の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.1%となりました。住宅投資や設備投資などの回復がプラス要因となりました。
<見通し>
米国は、雇用情勢の改善に遅れがみられますがワクチン普及により対面型サービス消費が加速し、2021年4-6月期の個人消費は上振れる可能性が高いとみられます。力強い景気回復が続くなか、量的緩和縮小がいつになるのかが今後の注目点となりそうです。
欧州は、2021年4-6月期以降はワクチン接種が進展し、感染状況が安定化すると想定されます。財政拡張や金融緩和が下支えとなり、2021年後半以降は復興基金による欧州全体の投資拡大などによって、2022年初にはコロナ禍前の水準を回復すると予想します。
日本は、緊急事態宣言延長の影響により、2021年4-6月期も景気の停滞が想定されます。景気配慮型の財政・金融政策が維持されるなか、景気の回復は、ワクチンが普及し始める2021年7-9月期以降と見込まれます。
中国は、伸び率は鈍化するものの、引き続き高めの経済成長が続く見通しです。米中対立などが懸念されるなかで、景気対策としてハイテクなど高付加価値産業の育成を更に加速していくと思われます。感染抑制下で雇用安定を維持出来れば、2021年7-9月期以降は消費も明確に持ち直すとみられます。
豪州は、コロナ感染を低位に抑え込めており、経済は緩やかに回復すると見込まれます。政府の追加的な景気対策やワクチン接種の進展によって、サービス消費などが景気の押し上げ要因となるとみられます。
3.金融政策
<現状>
FRBは6月15~16日のFOMCで、ゼロ金利政策を含む大規模な金融緩和政策を維持しましたが、2023年中にゼロ金利政策を解除する見通しを示し、これまで24年以降としていた利上げ時期の想定を前倒ししました。ただし、足元の物価の上昇加速は一時的とみており、金融緩和を粘り強く続ける姿勢を示しました。ECBは6月10日の理事会で、主要政策金利を据え置き、資産購入(パンデミック緊急購入プログラム〔PEPP〕)を現状のペースで続けることを決定しました。日銀は6月17~18日に行われた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持しました。
<見通し>
主要中央銀行は金融政策を「緊急緩和」から「緩和的金融環境を維持」の状態にシフトしており、主要先進国の政策金利は相当期間、現状維持が続くとみられます。FRBは年内にも債券購入ペースの減額(テーパリング)を開始する可能性がありますが、雇用回復や金融市場安定のため市場とのきめ細かいコミュニケーションを通じて、金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行う見通しです。ECBは経済見通しを上方修正しましたが、物価上昇には慎重な見方を示しており、今後も緩和的な金融環境維持に向けた政策運営を続ける見通しです。日銀は金融緩和の持続性を高めるため政策の微修正を行っており、現行の大規模金融緩和を長期化するとみられます。
4.債券
<現状>
主要先進国の10年国債利回り(長期金利)は低下しました。米国では、FRBが6月のFOMCで、これまで24年以降としていた利上げ時期の想定を前倒ししたことを受け、長期金利は一時1.5%台後半まで上昇しましたが、パウエルFRB議長が改めてインフレ上昇は一時的との見方を示したことなどから、月末は1.4%台半ばに低下しました。一方、短期や中期の利回りは上昇したため、イールドカーブはフラット化しました。欧州では、ECB理事会で金融緩和政策の現状維持が決定され、長期金利が低下しました。日本でも、金融政策決定会合で大規模緩和が維持されるなか、長期金利は低下しました。社債については、景気回復期待から国債と社債の利回り格差が縮小しました。
<見通し>
米国の長期金利は、財政政策やコロナワクチンの普及による景気回復期待から先行きレンジを切り上げる動きを想定します。ただし、FRBは新型コロナによる労働市場へのダメージを意識し、実質金利の急上昇を回避するように政策運営を行うとみられるため、当面はもみ合いが続くと予想します。欧州の長期金利は、低インフレやECBの金融緩和継続が上昇抑制要因となり大局的には低水準で推移するものの、先行きはワクチンの普及や景気回復期待から緩やかに水準を切り上げると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、極めて低水準での安定推移が続くと予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の6月の1株当たり予想利益(EPS)は201.9で、前年同月比+39.2%(前月同+39.1%)と5ヵ月連続のプラスとなりました。予想EPSの水準は4ヵ月連続で過去最高を更新しました。一方、TOPIXの予想EPSは124.7で、伸び率は同+36.7%(前月同+23.4%)と大きく上昇しました。米国市場は、6月FOMCの結果がタカ派的姿勢となったことから、長期金利が上昇し、株式市場も調整しましたが一時的でした。月間を通じて長期金利は低下基調となり、さらに、バイデン米大統領がインフラ投資で超党派の上院議員と合意に至ったとの発表も好感されたことから、米国株式市場はハイテク株主導で上値追いの展開となりました。S&P500種指数、ナスダック総合指数は史上最高値を更新しました。月間ではS&P500種指数が前月比+2.2%、ナスダック総合指数が同+5.5%、NYダウが同▲0.1%でした。一方、日本株式市場は、米国のハイテク株主導の動きに追随する場面もありましたが続かず、新型コロナウイルスの感染再拡大懸念から頭の重い展開となりました。それでもTOPIXは前月比+1.1%と2ヵ月連続の上昇でした。日経平均株価は同▲0.2%でした。
<見通し>
米国では、S&P500種指数採用企業の21年4-6月の純利益が前年同期比+65.1%と大幅な増益見通しです。続く7-9月は同+24.4%、10-12月は同+17.0%、22年1-3月は同+2.6%と次第に伸び率が鈍化する見通しです(リフィニティブ集計。6月25日)。一方、日本の21年純利益の伸び率見通しは前年比+45.6%と前月の同+42.0%より上方修正されました。続く22年は同+12.9%と前月の同+13.7%より下方修正されましたが、好調に推移する見通しに変化はありません(FactSet調べ。6月30日)。7月は、金融政策・業績が注目ポイントとなりそうです。下旬に開催されるFOMCで資産買入の縮小(テーパリング)の予備的議論が開始され、米国市場は実際の開始時期などを巡り神経質な展開が続く見通しです。また、日米ともに中旬以降4-6月期の決算発表が控えています。日米株式市場は、業績の回復度合いと年後半の業績に対する期待などを反映しながら推移する見通しです。
6.為替
<現状>
6月の円相場は対米ドルで下落した一方、対ユーロや対豪ドルなどでは上昇しました。6月のFOMCで、予想外に利上げ時期の想定が前倒しされたことから、米国の量的緩和の早期縮小観測が強まり、円は対米ドルで111円近辺に下落しました。一方、円は対ユーロでは131円台後半に上昇し、円高が進みました。6月の理事会ではECBの金融緩和政策が維持され、米欧の金融緩和姿勢に差が生じたことでユーロが対米ドルで大きく売られたため、円は対ユーロで上昇しました。また、円は対豪ドルでも上昇し、83円台前半ばで終了しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、レンジ内での緩やかな円安を予想します。コロナワクチンの普及や大規模な財政支出による景気回復が米ドルにプラスに働く一方、米経常赤字の拡大やFRBのゼロ金利政策長期化から、米ドルの上値は抑制されるとみられます。当面は米国景気の上振れが見込まれるため、円高リスクが後退するなかで、円の対米ドルレートは緩やかな円安を想定します。円の対ユーロレートは、緩やかな円安を予想します。年後半に向け、欧州復興基金、新型コロナワクチン普及による景気回復などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。円の対豪ドルレートは、緩やかな円安を予想します。豪州は新型コロナ感染を抑制できており、世界経済の回復に伴う商品市況の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は上昇しました。上旬から中旬にかけては、新型コロナウイルスの感染抑制や、ワクチン接種の進展に伴う経済再開期待などから上昇しました。中旬以降は、FOMCで利上げ予想が2023年に前倒しされたことを受けて長期金利が上昇し、リート市場も弱含みました。その後、長期金利は低下に転じたものの、リート市場では利益確定の動きが月末にかけて続き、上げ幅を縮小する展開となりました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)は前月末比+1.3%となりました。対ドルで円安となったことから円ベースでは同+2.8%となりました。
<見通し>
グローバルリート市場は長期金利の上昇が緩やかにとどまると見込まれるなか、上昇を継続すると予想します。米国では、ワクチン接種の進展もあり足元のコロナ新規感染は抑制されています。また、バイデン政権による大規模な財政政策などから、景気は当面比較的強い回復基調を辿るとみられます。欧州でもワクチン接種によりコロナ新規感染が減少しており、今後域外からの渡航制限の緩和が本格化すれば観光関連中心にポジティブです。世界経済の回復や商品市況の上昇を受けて豪州景気が回復していることから、豪州リート市場も底堅い展開を見込みます。
8.まとめ
<債券>
米国の長期金利は、財政政策やコロナワクチンの普及による景気回復期待から先行きレンジを切り上げる動きを想定します。ただし、FRBは新型コロナによる労働市場へのダメージを意識し、実質金利の急上昇を回避するように政策運営を行うとみられるため、当面はもみ合いが続くと予想します。欧州の長期金利は、低インフレやECBの金融緩和継続が上昇抑制要因となり大局的には低水準で推移するものの、先行きはワクチンの普及や景気回復期待から緩やかに水準を切り上げると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、極めて低水準での安定推移が続くと予想します。
<株式>
米国では、S&P500種指数採用企業の21年4-6月の純利益が前年同期比+65.1%と大幅な増益見通しです。続く7-9月は同+24.4%、10-12月は同+17.0%、22年1-3月は同+2.6%と次第に伸び率が鈍化する見通しです(リフィニティブ集計。6月25日)。一方、日本の21年純利益の伸び率見通しは前年比+45.6%と前月の同+42.0%より上方修正されました。続く22年は同+12.9%と前月の同+13.7%より下方修正されましたが、好調に推移する見通しに変化はありません(FactSet調べ。6月30日)。7月は、金融政策・業績が注目ポイントとなりそうです。下旬に開催されるFOMCで資産買入の縮小(テーパリング)の予備的議論が開始され、米国市場は実際の開始時期などを巡り神経質な展開が続く見通しです。また、日米ともに中旬以降4-6月期の決算発表が控えています。日米株式市場は、業績の回復度合いと年後半の業績に対する期待などを反映しながら推移する見通しです。
<為替>
円の対米ドルレートは、レンジ内での緩やかな円安を予想します。コロナワクチンの普及や大規模な財政支出による景気回復が米ドルにプラスに働く一方、米経常赤字の拡大やFRBのゼロ金利政策長期化から、米ドルの上値は抑制されるとみられます。当面は米国景気の上振れが見込まれるため、円高リスクが後退する中で、円の対米ドルレートは緩やかな円安を想定します。円の対ユーロレートは、緩やかな円安を予想します。年後半に向け、欧州復興基金、新型コロナワクチン普及による景気回復などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。円の対豪ドルレートは、緩やかな円安を予想します。豪州は新型コロナ感染を抑制できており、世界経済の回復に伴う商品市況の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
<リート>
グローバルリート市場は長期金利の上昇が緩やかにとどまると見込まれるなか、上昇を継続すると予想します。米国では、ワクチン接種の進展もあり足元のコロナ新規感染は抑制されています。また、バイデン政権による大規模な財政政策などから、景気は当面比較的強い回復基調を辿るとみられます。欧州でもワクチン接種によりコロナ新規感染が減少しており、今後域外からの渡航制限の緩和が本格化すれば観光関連中心にポジティブです。世界経済の回復や商品市況の上昇を受けて豪州景気が回復していることから、豪州リート市場も底堅い展開を見込みます。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年6月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2021年7月2日)