1.概観
【株式】
7月の主要国の株式市場は、高安まちまちとなりました。米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和の早期縮小観測が後退したことや、好調な4-6月期決算を受けて、NYダウなどの主要株価指数が過去最高値を更新するなど、しっかりとした展開となりました。欧州では、新型コロナの変異ウイルスの感染拡大による世界景気悪化懸念から上値が重くなったものの、底堅い動きとなりました。一方、日本では、変異ウイルスの感染急増が嫌気され、日経平均株価が続落しました。また、中国では、政府の企業への規制強化を受けて、上海総合指数や香港ハンセン指数が大幅に下落しました。
【債券】
主要先進国の10年国債利回り(長期金利)は低下しました。米国では、パウエルFRB議長の議会証言を受けて量的緩和の早期縮小観測が後退したことや、世界で変異ウイルスの感染拡大が収まらず、景気回復が遅れるとの懸念などから大きく低下しました。欧州では、欧州中央銀行(ECB)がフォワードガイダンスを修正し、超低金利政策をより長く続けることを示したことから、長期金利が大きく低下しました。日本でも、金融政策決定会合で大規模緩和が維持されるなか、長期金利が低下しました。
【為替】
7月の円相場は、欧米の金利低下やコロナ感染拡大によるリスク回避の動きを受けて、主要通貨に対して上昇しました。
【商品】
原油価格はほぼ横ばいでした。変異ウイルスの感染拡大による景気悪化懸念などから一時急落しましたが、月末にかけて値を戻しました。
2.景気動向
<現状>
米国の2021年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+6.5%となり市場予想を下回りましたが、4四半期連続のプラス成長となりました。
欧州(ユーロ圏)の2021年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+13.7%となり、3四半期ぶりのプラス成長となりました。
日本の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲3.9%となりました。雇用は堅調に推移し、消費に持ち直しがみられました。
中国の2021年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.9%となり、5四半期連続のプラス成長と、安定した景気回復が続いています。
豪州の2021年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.1%となりました。住宅投資や設備投資などの回復がプラス要因となりました。
<見通し>
米国は、新型コロナの変異ウイルスによって感染拡大が続いているものの、雇用情勢に改善がみられることに加え、ワクチンの普及によりサービス消費が加速するなど、景気は上向き続けていると考えられます。今後は、量的緩和縮小の開始時期がいつになるのかが注目されます。
欧州は、変異ウイルスによる感染者数の増加が想定されますが、ワクチン接種の進展によって、経済活動を大きく制約するような行動規制が実施される可能性は低いと思われます。2021年後半以降は復興基金による欧州全体の投資拡大などによって、2022年初にはコロナ禍前の水準を回復すると予想します。
日本は、4回目の緊急事態宣言の再発出や、五輪が無観客開催となるなか、追加経済対策の概要が示される可能性が高いとみられます。景気の回復は、ワクチン普及や、外需拡大や自動車の挽回生産などが見込まれる2021年7-9月期以降と予想されます。
中国は、伸び率は鈍化するものの、引き続き高めの経済成長が続く見通しです。ハイテク・新エネルギー産業など高付加価値産業が生産をけん引していくと予想されます。感染抑制下で労働市場が安定し所得が戻ってくれば、消費主導の景気回復が想定されます。
豪州は、感染再拡大によるロックダウン延長などの影響を受け、一時的な経済再開の遅れが予想されます。
3.金融政策
<現状>
FRBは7月27~28日のFOMCで、ゼロ金利政策を含む大規模な金融緩和政策を維持しました。パウエルFRB議長は記者会見で、量的緩和の縮小(テーパリング)について議論したことを明らかにしました。ただし、足元の物価の上昇加速は一時的とみており、債券購入を減額する時期はデータ次第として、金融緩和を粘り強く続ける姿勢を示しました。ECBは7月22日の理事会で、主要政策金利を据え置く一方、金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を変更して、物価上昇率が2%を上回っても容認する姿勢を表明し、より長く超低金利政策を続けることを示しました。日銀は7月15~16日に行われた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持しました。
<見通し>
主要中央銀行は金融政策を「緊急緩和」から「緩和的金融環境を維持」の状態にシフトしており、主要先進国の政策金利は相当期間、現状維持が続くとみられます。FRBは来年初に債券購入ペースの減額を開始するとみていますが、雇用回復や金融市場安定のため市場とのきめ細かいコミュニケーションを通じて、金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行う見通しです。ECBはフォワードガイダンスを修正して、超低金利政策をより長く続ける姿勢を示しており、緩和的な金融環境維持に向けた政策運営を続ける見通しです。日銀は金融緩和の持続性を高めるため政策の微修正を行っており、現行の大規模金融緩和を長期化するとみられます。
4.債券
<現状>
主要先進国の10年国債利回り(長期金利)は低下しました。米国では、パウエルFRB議長の議会証言を受けて、量的緩和の早期縮小観測が後退したことや、世界で変異ウイルスの感染拡大が収まらず、景気回復が遅れかねないとの懸念などから、6月末の1.4%台半ばから1.2%台前半に低下しました。欧州では、ECBがフォワードガイダンスを修正し、超低金利政策をより長く続けることを示したことから、長期金利が大きく低下しました。日本でも、金融政策決定会合で大規模緩和が維持されるなか、長期金利は低下しました。社債については、投資家のリスク回避姿勢から国債と社債の利回り格差が拡大しました。
<見通し>
米国の長期金利は、財政政策やコロナワクチンの普及による景気回復期待から先行きレンジを切り上げる動きを想定します。ただし、FRBは雇用回復や金融市場安定のため、金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行うとみられるため、当面はもみ合いが続くと予想します。欧州の長期金利は、ECBの超低金利政策の長期化で大局的には低水準で推移するものの、先行きはワクチンの普及や景気回復期待から緩やかに水準を切り上げると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、極めて低水準での安定推移が続くと予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の7月の1株当たり予想利益(EPS)は209.6で、前年同月比+38.8%(前月同+39.1%)と6ヵ月連続のプラスとなりました。予想EPSの水準は5ヵ月連続で過去最高を更新しました。一方、TOPIXの予想EPSは127.1で、伸び率は同+39.9%(前月同+36.8%)と大きく上昇しました。米国株式市場は、変異ウイルスの感染拡大が懸念されつつも、好調な企業業績と長期金利の低下基調が支えとなりました。米国株式市場はグロース株を中心に最高値を更新する展開となり、主要3指標は7月26日にそろって史上最高値を更新しました。月間ではS&P500種指数が前月比+2.3%、NYダウが同+1.3%、ナスダック総合指数が同+1.2%でした。一方、日本株式市場は、過去最大の感染者数の増加から景気回復への懸念が再度広がったこと、下旬から始まった4-6月の業績発表は総じて好調なものの、株価がそれを素直に反応しない、といったことなどから軟調な展開となりました。日経平均株価は前月比▲5.2%、TOPIXは同▲2.2%でした。
<見通し>
米国では、S&P500種指数採用企業の21年4-6月の純利益が前年同期比+89.8%と大幅な増益見通しです。続く7-9月は同+29.7%、10-12月は同+21.2%、22年1-3月は同+4.9%、22年4-6月は同+4.4%と次第に伸び率が鈍化する見通しです(リフィニティブ集計。7月30日)。一方、日本の21年純利益の伸び率見通しは前年比+46.7%と前月の同+45.6%より上方修正されました。続く22年も同+13.2%と前月(同+12.9%)より上方修正されました(FactSet調べ。7月30日)。8月は、上旬、日米ともに企業業績が注目されます。一方、月間を通じて米国の景気・物価関連指標に留意する必要がありそうです。米国株式市場が堅調な背景の一つに、実質金利(名目金利-インフレ期待)の低下があるためです。また、26-28日の米ジャクソンホール会議で今後の資産購入の縮小(テーパリング)についての進め方にどのような言及があるかも注目されます。
6.為替
<現状>
7月の円相場は欧米の金利低下やコロナ感染拡大によるリスク回避の動きを受けて、主要通貨に対して上昇しました。パウエルFRB議長が現状の物価上昇は一時的なものとして、早期のテーパリング開始に否定的な見解を示したため、米長期金利が低下して日米長期金利差が縮小したことなどから、円は対米ドルで109円台後半に上昇しました。同様に、ECBがフォワードガイダンスを変更したことに伴い、超低金利政策の長期化観測で欧州金利が低下したことなどから、円は対ユーロで130円台前半に上昇しました。また、円は、豪州の長期金利低下や資源価格上昇一服などを背景に、対豪ドルで80円台後半に上昇しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、レンジ内での緩やかな下落を予想します。コロナワクチンの普及や大規模な財政支出による景気回復が米ドルにプラスに働く一方、米経常赤字の拡大やFRBのゼロ金利政策長期化から、米ドルの上値は抑制されるとみられます。当面は米国景気の回復が見込まれるため、円高リスクが後退するなかで、円の対米ドルレートは緩やかな下落を想定します。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。年後半に向け、欧州復興基金、新型コロナワクチン普及による景気回復などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートは、緩やかな下落を予想します。豪州は新型コロナ感染を相対的に抑制できており、世界経済の回復に伴う商品市況の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は上昇しました。上旬から中旬にかけては、新型コロナウイルスの感染抑制や、ワクチン接種の進展に伴う経済再開期待などから上昇しました。中旬には変異ウイルスの感染拡大を受けて弱含む局面があったものの、長期金利の低下が加速したことなどから持ち直し、下旬にかけて高値圏を維持しました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)は前月末比+3.9%となりました。対ドルで円高となったことから円ベースでは同+2.7%となりました。
<見通し>
グローバルリート市場は長期金利の上昇が緩やかにとどまると見込まれるなか、上昇を継続すると予想します。米国では、ワクチン接種の進展もあり足元の新規感染は抑制されています。また、バイデン政権による大規模な財政政策などから、景気は当面比較的強い回復基調を辿るとみられます。欧州でもワクチン接種により新規感染が比較的抑制されています。域外からの渡航制限の緩和が本格化すれば特に観光関連にポジティブとなるため、変異ウイルスの感染動向と合わせて注目です。豪州における感染拡大による行動制限強化も懸念材料ではあるものの、金融緩和の継続や、世界経済の回復や商品市況の上昇を受けて景気が回復していることから、豪州リート市場も底堅い展開を見込みます。
8.まとめ
<債券>
米国の長期金利は、財政政策やコロナワクチンの普及による景気回復期待から先行きレンジを切り上げる動きを想定します。ただし、FRBは雇用回復や金融市場安定のため、金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行うとみられるため、当面はもみ合いが続くと予想します。欧州の長期金利は、ECBの超低金利政策の長期化で大局的には低水準で推移するものの、先行きはワクチンの普及や景気回復期待から緩やかに水準を切り上げると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、極めて低水準での安定推移が続くと予想します。
<株式>
米国では、S&P500種指数採用企業の21年4-6月の純利益が前年同期比+89.8%と大幅な増益見通しです。続く7-9月は同+29.7%、10-12月は同+21.2%、22年1-3月は同+4.9%と、22年4-6月は同+4.4%と次第に伸び率が鈍化する見通しです(リフィニティブ集計。7月30日)。一方、日本の21年純利益の伸び率見通しは前年比+46.7%と前月の同+45.6%より上方修正されました。続く22年も同+13.2%と前月(同+12.9%)より上方修正されました(FactSet調べ。7月30日)。8月は、上旬、日米ともに企業業績が注目されます。一方、月間を通じて米国の景気・物価関連指標に留意する必要がありそうです。米国株式市場が堅調な背景の一つに、実質金利(名目金利-インフレ期待)の低下があるためです。また、26-28日の米ジャクソンホール会議で今後の資産購入の縮小(テーパリング)についての進め方にどのような言及があるかも注目されます。
<為替>
円の対米ドルレートは、レンジ内での緩やかな下落を予想します。コロナワクチンの普及や大規模な財政支出による景気回復が米ドルにプラスに働く一方、米経常赤字の拡大やFRBのゼロ金利政策長期化から、米ドルの上値は抑制されるとみられます。当面は米国景気の回復が見込まれるため、円高リスクが後退するなかで、円の対米ドルレートは緩やかな下落を想定します。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。年後半に向け、欧州復興基金、新型コロナワクチン普及による景気回復などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートは、緩やかな下落を予想します。豪州は新型コロナ感染を相対的に抑制できており、世界経済の回復に伴う商品市況の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
<リート>
グローバルリート市場は長期金利の上昇が緩やかにとどまると見込まれるなか、上昇を継続すると予想します。米国では、ワクチン接種の進展もあり足元の新規感染は抑制されています。また、バイデン政権による大規模な財政政策などから、景気は当面比較的強い回復基調を辿るとみられます。欧州でもワクチン接種により新規感染が比較的抑制されています。域外からの渡航制限の緩和が本格化すれば特に観光関連にポジティブとなるため、変異ウイルスの感染動向と合わせて注目です。豪州における感染拡大による行動制限強化も懸念材料ではあるものの、金融緩和の継続や、世界経済の回復や商品市況の上昇を受けて景気が回復していることから、豪州リート市場も底堅い展開を見込みます。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年7月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2021年8月3日)