日本にある「世界有数の金山」とは
ICの接点部分に使われているごく少量の金にも、「チリも積もれば山となる」を地で行く興味深い話があります。大量の携帯電話機の廃品からうまく抽出することができれば、想像以上に価値のある資源再利用につながるのです。
具体的にご説明しますと、携帯電話機の廃品1トンから抽出できるはずの金の重量は約150グラムに達します。「なんだ、たった150グラムか」とがっかりされた方は、最近の金山経営がどんなに品位の低い金鉱石を相手に悪戦苦闘しているかをご存じないのでしょう。
品位とは、鉱石1トン当たり何グラムの金が取れるかを示す数値で、例えば品位10と言えば、1トンの金鉱石から10グラムの金が取れることを意味します。「えっ、そんなに少ししか取れなくて商売になるの?」と思われるかもしれません。
[図表1]のグラフをご覧ください。現在主要な産金国の中で、いちばん品位が高い南アフリカでも平均品位は4ぐらいにとどまります。カナダとオーストラリアは2〜3、アメリカにいたっては、1に達しないほど低品位の金山ばかりになっているのです。
2007年に世界第1位の金産出国になり、その後も首位の座を維持しているのは、[図表2]のグラフにも出ていますが、中国です。中国は金山に関するくわしい情報を公表していません。ですが、アメリカ以上に品位の低い金山が多くて、そこを低賃金の労働者を大勢搔き集めて人海戦術で大量に掘り出しているのではないかと推測されています。
世界の主要金産国の現状と比べると、日本の携帯電話機その他の電子機器の廃品の山は、すばらしい高品位金山、文字どおり宝の山と言っても過言ではありません。東京財団研究員の平沼光さんが2011年に講談社プラスα新書から『日本は世界一位の金属資源大国』という本を出されたのも、そういう実情をしっかり調べた上でのことだと思います。
ただ、この本にはちょっとミスリーディングなところがあります。諸外国は、相変わらず地下鉱脈を掘るにせよ、露天掘りをするにせよ、天然資源としての金属を掘り出して精錬するだけなのに、日本は都市に集積した廃品の山という「都市鉱山」から金属の回収、再生利用をするとしたら、日本が世界一の金属資源大国になるとおっしゃっているからです。
ちょっと考えると、他の国々も都市鉱山の有効利用に乗り出したら、結局日本は天然資源としての金属埋蔵量が少ない分だけ不利で、やっぱり金属資源小国に戻ってしまいそうに思えます。